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十勝農業試験場

小豆の研究内容

新品種の育成

主な育種目標

(1)耐病性

北海道における小豆の重要病害である、落葉病・茎疫病・萎凋病という3つの土壌病害(註1)に対して、それらすべてに重複して抵抗性を持つ品種育成を目標に進めています。

落葉病は、十勝農試場内に多発圃を造成して選抜しています。

茎疫病・萎凋病は高温条件を好み、十勝地方での発生は比較的少なく選抜は困難です。そこで、気温の高い上川管内比布町にある上川農業試験場内に造成した、茎疫病多発圃場で選抜しています。現在の優良品種において、「しゅまり」、「きたろまん」、「ちはやひめ」などが3病害すべてに抵抗性、「きたのおとめ」、「エリモ167」、「とよみ大納言」などが落葉病と萎凋病に抵抗性を持っています。

(註1)土壌病害:土壌中に生息する病原菌が原因となって発生する病害。薬剤散布で防除することが困難なため、発生すると被害を軽減することが困難です。また、発生した土地では長年にわたって病原菌が生息し続けるため、その作物を作付けすると再び病害が発生することが多いです。このため、抵抗性品種が最も有効な対策です。

近年、ダイズシストセンチュウ(註2)(Soybean Cyst Nematode:SCN)による被害が小豆でも目立ってきています。SCNの密度が高い畑では深刻な生育抑制と減収被害が発生しており、小豆の安定生産を脅かしています。また、SCNは落葉病の発生を助長します。このため、SCNが高密度の畑で落葉病に抵抗性のない品種を栽培するとSCNと落葉病により、大きく減収する可能性があります。

大豆ではSCN抵抗性の優良品種がすでに栽培されていますが、小豆ではまだ開発されていません。そこで、 SCNに抵抗性のある品種を育成するために、 SCNに強い遺伝資源を探索し、交配親とすることに加え、十勝地方でSCNが高密度の畑でも生育が良く、よく穫れる小豆の選抜を行っています。

(註2)ダイズシストセンチュウ:大豆、小豆、菜豆などの豆類の根に寄生し、根の伸長と養分吸収の阻害、並びに根粒菌の着生を抑制する線虫。加えて、地上部では葉が黄色くなる。雌成虫が体内と体外に多くの卵を産み、体外に生まれた卵はその年の内にふ化し、寄生します。体内に産まれた卵は、雌成虫が死亡後シストとなり、土の中で乾燥や低温などから保護するため、長期にわたり生存できます。この卵は、寄生する植物(宿主植物)があるとふ化する特性を持ち、1匹が多くの卵を産み増殖速度が速いため、宿主植物を連作する急激に密度が上昇し、被害が大きくなります。

写真:落葉病にかかった個体 写真:茎疫病で葉が黄色くなったり枯れた小豆(手前の方)
落葉病にかかった個体 茎疫病で葉が黄色くなったり枯れた小豆(手前の方)
写真:萎凋病で半分以上枯れてしまった小豆畑 写真:SCNで莢が黄色くなった小豆畑
萎凋病で半分以上枯れてしまった小豆畑 SCNで莢が黄色くなった小豆畑

(2)耐冷性

北海道、特に小豆の主産地となっている道東の十勝・網走地方は、しばしば6月~8月に冷たいオホーツク高気圧の張り出しにより、長期にわたって気温が上がらなかったり、開花期である7月下旬から8月中旬にかけての特定の時期に1週間以上低温となり、畑作物の中でも最も低温に弱い作物である小豆は冷害に見舞われたりします。

これらの低温に強い品種を育成するため、人工的な低温条件を作り出せる低温育種実験室で、現在普及している品種より低温に強い遺伝資源を探索したり、十勝地方でも特に夏季冷涼な場所で、生育が良く莢が多く実る小豆を選抜しています。

十勝地方における小豆の収量推移グラフ

(3)高品質

普通小豆の主用途である餡に加工したときの色・舌触りの滑らかさ等の優良性を目標に選抜しています。また、大納言小豆は、子実の形を残した甘納豆等の用途が主であるため、粒大や種皮色で選抜しています。味や香りは、多くの成分が複雑に関わっているため要因解明がまだ進んでおらず、他機関と共同で現在研究中です。

機械収穫適性

小豆の収穫は現在、豆刈機(ビーンハーベスター)という機械で列状に刈り倒し、それをピックアップ装置付のスレッシャで機械的に拾い上げながら脱穀する方式が主流です。しかし、刈り倒すことなく立った状態で、コンバインで直接収穫することができれば、より省力的に収穫することができます。

しかし、小豆は倒伏しやすく、莢の着く位置が低いため、コンバインで直接収穫すると収穫損失が大きくなりやすい欠点があります。そこで、倒伏に強く、莢が高い位置に着くような草姿をした品種の育成を進めています。

遺伝資源の収集・保存・特性調査

これまでに、日本国内はもとより、韓国・台湾・ネパール・ブータンにおいて遺伝資源収集を実施するとともに、海外の研究機関等からも遺伝資源を導入してきました。この結果、十勝農試では、ヤブツルアズキ等の近縁野生種を含めて、3,000点以上の遺伝資源を保存しています。

これらの遺伝資源は、低温条件下(2°C、湿度70%程度)で保存し、必要に応じて増殖したり耐病性等の特性調査を実施たりし、有用な特性が確認された遺伝資源は交配親として活用されています。

栽培試験

開発した小豆新品種の特性を存分に活用するための栽培法について、試験を実施しています。

小豆早生品種の成熟期予測マップ(PDF)

上記マップのダウンロードとご利用に際しては、以下の点にご留意ください。

  1. 本マップの出展は、平成31年指導参考事項「道東地域における小豆早生品種の密植・適期播種による安定栽培法」である。
  2. 成熟期とは、対象とする群落の莢のうち8割が熟莢色(品種固有の莢色で、「きたろまん」、「ちはやひめ」は褐色)となった日である。
  3. 成熟期予測は標準栽植密度(およそ16,700本/10a)条件に限った。
  4. 農研機構メッシュ農業気象データ(The Agro-Meteorological Grid Square Data, NARO)の平年値を使用した。
  5. マップ中の数字は「推定初霜害年数」を示し、各アメダス地点における過去13か年(2010, 2018年を除く2004~2017年)の推定成熟期及び推定初霜日から、未達又は初霜害の被害があると推定された年数である。