水産研究本部

試験研究は今 No.680「もう“塩カリ”にカリカリしないで!~ 融雪剤とコンブの関係」(2011年1月27日 )

試験研究は今 No.680「もう“塩カリ”にカリカリしないで!? 融雪剤とコンブの関係」(2011年1月27日 )

1.はじめに

  北海道日本海沿岸の一帯では、磯焼けと呼ばれる現象が広がり、ホソメコンブなどの大きな海藻が減少しています。磯焼けは海藻を餌にするウニ類やエゾアワビの減少をもたらすほか、海藻のある場所(藻場)を産卵や成長の場にしている魚介類をも減少させていると考えられています。

  磯焼けが特に拡大してきたのは、この30年ほどの間ですが、その原因の一つとして冬季に道路にまかれる融雪剤(通称:塩カリ、塩カル)が、海岸沿いの道路を通じて流入し、何かコンブに悪影響を与えているのではと考える漁業者さんもおられました。言われてみるとスパイクタイヤが原則禁止になった昨今では、スタッドレスタイヤでの安全走行ができるよう、もしかしたら融雪剤を昔より多くまいているのかもしれません。

  そこで、中央水産試験場の資源増殖グループでは、まず既存の資料から融雪剤の散布状況を調査しました。また、実際に融雪剤がコンブに悪影響を与えていないか培養試験を実施中です。今回は資料調査からわかった融雪剤の散布状況と、資料から試算される散布量をお知らせします。

  ちなみに、道路融雪剤として用いられている通称「塩カリ・塩カル」とは、主に塩化カルシウム(化学式CaCl2)を指しています。 

2.資料調査

  道路関連の公開資料(国土技術政策総合研究所資料,各地の開発建設部の道路維持管理計画など)を集めて参考にしました。 

3.調査結果

融雪剤の種類

  資料によると、後志管内で散布されている粒状の融雪剤の大半は「岩塩」、つまり塩(塩化ナトリウム)であることが判明しました。塩化カルシウム(“塩カリ・塩カル”)は、液体散布する際に用いられているが、割合は小さいとのことでした。また、国土技術政策総合研究所資料によると、札幌市や高速道路では塩化カルシウムが主体であるようですが、後志管内の一般道路では塩化ナトリウム(岩塩)が散布の9割以上を占めることが判りました。

融雪剤の散布量

  道路維持管理計画資料によると、現在道路面積1平方メートルあたり、20グラムを1回の散布量の基準にしているとのことです。国土技術政策総合研究所資料には、小樽市オタモイを調査地点にした融雪剤の年間散布量のデータが示されており、そのデータから換算すると、1年間で道路延長1メートルあたり塩化ナトリウムとして87.5キログラム、塩化カルシウムとして1.4キログラムに相当する量を散布していることがわかりました。また、この調査が行われた年の出動回数は108回でした。小樽市オタモイの国道は片側2車線なので、道路幅20メートルと仮定すると、1回の出動で道路面積1平方メートルあたり塩化ナトリウム約40グラム、塩化カルシウムを約0.7グラム散布していた計算になります。

海水中の塩類の含有量

  資料書籍「海洋深層水の利用」から試算すると、海水1立方メートルには、塩化ナトリウムが約27キログラム、塩化カルシウムが約1.2キログラムが含まれることがわかりました。

道路からの融雪剤の量

  上記の結果から、道路面積1平方メートルにつき、20グラムから約40グラム強の融雪剤が散布されているということが試算されます。海岸沿いに多い片側1車線の道路を幅10メートルと仮定すると、道路の長さ1メートル(面積10平方メートル)につき200グラム~400グラム程度の塩類が1回の出動で散布されていると推測できます。塩化ナトリウムと塩化カルシウムの割合をそれぞれ90パーセント、10パーセントとすると、塩化ナトリウムが180~360グラム、塩化カルシウムが20~40グラムの割合になると考えられます。

海岸への融雪剤の流入量と影響の程度

  長さ1メートル、幅10メートルの道路から、先に計算した塩化ナトリウム360グラム、塩化カルシウム40グラムが隣接する海岸に流入し、波打ち際の1立方メートルの海水に混合したと仮定します(図1)。1立方メートルの海水には元々塩化ナトリウム27キログラム、塩化カルシウム1.4キログラムが含まれているので、融雪剤からの増加分はそれぞれ1.3パーセント、2.8パーセントとなり、海水全体に与える影響はわずかなものと推測されます(図2)。また、実際には雪に溶けて流入する上、波や風で沖の海水と混合して薄められ、さらに混入割合は低くなると考えられます。
    • 図1、図2

4.おわりに

写真1
  道路維持の現場では、散布量をなるべく少なくするため、常に道路全路線に撒くのではなく、道路の状態や場所に最適化した散布量を設定しています。また、散布後に融雪剤が飛び散らないように粘性のある糖類を補助剤に使う研究が行われています。融雪剤散布の本来の目的である道路の安全確保を維持しつつ、環境への影響が少ない方法が模索されているようです。海に対する人為的な影響は何事も少ないに越したことはないでしょうが、今回の資料や試算からは、道路から流入する融雪剤の量は、海水にもともと含まれる塩化ナトリウム・塩化カルシウムの量と比較してごく少ないことがわかりました。試験場では念のため、様々なカルシウム濃度の人工海水でコンブを培養し、影響の程度を確認しています(写真1)。今後結果がまとまり次第報告する予定です。

5.参考文献

国土技術政策総合研究所資料 No.412 2007.
海洋深層水の利用. 緑書房. 2002.

(中央水産試験場 資源増殖部 資源増殖グループ 研究主任 秋野秀樹)

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