水産研究本部

試験研究は今 No.209「宗谷・留萌管内試験研究地域プラザから」(1994年12月16日)

宗谷・留萌管内試験研究地域プラザから

  平成6年11月15日に稚内市で宗谷・留萌管内試験研究地域プラザを開催しました。今回は「ナマコ」をテーマに、他機関からも講師の方をお呼びしてそれぞれの分野から話題提供を願いました。道漁連高橋部長の「ナマコの消費・流通」、稚内水試加工研究室菅原研究職員の「ナマコの加工」、北大水産学部五嶋助教授の「ナマコの生態」、宗谷漁協坂東研究職員の「ナマコの種苗生産」、稚内水試資源増殖部原研究職員の「ナマコの資源管理」の5題のうち、水試研究職員が発表した2題についてその内容を紹介します。

マナマコの資源管理

  水産技術普及指導所の協力による平成5年度アンケート結果とマナマコ資源管理技術開発試験結果から、今後のマナマコ資源管理の方策を検討しました。

  アンケートの回収率は82.1パーセント(84件中、64件回収)。本道のマナマコ漁業を特徴付ける漁業形態、出荷形態等のデータが得られ、漁業調整規則による禁漁期以外に77.1パーセント(47件)の漁協で自主的な資源保護の試みがなされていることがわかりました。積極的な増殖手法としては、宗谷漁協で人工種苗放流が実施されています。実効性のあるマナマコ資源管理を検討するための有用なデータが資源管理技術開発試験によって得られていますが、それらを次の4点に要約しました。
  1. マナマコ稚仔(10グラム未満)は水深5メートル以深で見られ、親ナマコの生息する漁場に多く見られる。本州以南で言われている稚仔が潮間帯に生息し、親ナマコが深みに生息するという知見とは異なる。
  2. 初回産卵時の成熟重量が53.1グラムである(平成6年)。
  3. 推定された成長曲線から、早く見積っても成熟まで2.4年かかる。
  4. 桁網調査での生息密度は、砂泥域で0.003~0.01個体/m2、岩礁域で0.02~0.14個体/m2であり、底質により差がある。また、潜水調査による岩礁域での密度は最大1.2個体/m2である。
以上の結果から、産卵期の親の保護を目的とした禁漁期の設定だけでは実効が期待できないと考えられます。なぜならマナマコ稚仔と親マナマコが同じ生息域を共有するため、特に桁網漁業の場合、漁獲による稚仔の混獲や、生息域の破壊防止が困難だからです。また、タモ、ヤス、潜水等の場合でも、漁獲サイズ制限がないためマナマコ稚仔の保護は困難です。さらに底質による分布の局在から、高密度の生息域の破壊が急激な資源の減少につながる可能性があります。このため、以下の3つの手法を複合した資源管理が今後必要と考えられます。
  1. 禁漁区の設定によるマナマコ稚仔の保護
  2. 漁獲サイズ制限によるマナマコ稚仔の保護(網目、桁幅等漁具制限も含む)
  3. 禁漁期による、産卵期の親マナマコの保護

乾なまこへの加工について

  乾なまこの加工は、伝承技術によるため確立した製法がなく、品質がばらつきやすいといった問題があります。稚内水試では、加工法の実態調査を行い、製法上の問題点を整理した上で、水戻り率の良い一定した品質の乾ナマコができるように試験を実施し、その結果から次の図に示すような条件を得ました。

  実態 改善点
原料 桁網で漁獲後、ポリ樽に入れ、陸揚げ
  • ナマコの水分は漁期後半に低下し、製品歩留まりは増加傾向を示した
  • ナマコの溶解は10分間の水道水晒しで防止できるが、製品の水戻り率が低い傾向を示した
脱腸 肛門上部をまきりで3~4センチメートル切って、内臓をしごき出す
 
煮熟  煮熟水は水道水、半海水、2パーセント食塩入りよもぎ煮汁で行い、再沸騰後30~100分間煮熟
  • 煮熟水の塩分濃度の製品品質への影響は少ない
  • 煮熟温度は90~95度が適切であり、少なくとも40分間は必要である
 水洗・法冷    
 焙乾  27~81度で4~8時間
  •  焙乾温度を高くすると水戻り率も良くなったが、焦げ付きを防ぐため40~80度が適切である
 乾燥・あん蒸  天日乾燥(天候良)と焙乾(天候悪)、もしくは機械乾燥(18~50度)
  • 天日乾燥と機械乾燥による製品品質の違いは少なかった
  • 機械乾燥温度は、30~40度が適切である
 2番煮(染色)  沸騰したよもぎ煮汁で5~15分
  • よもぎ煮汁と鉄鍋を用いると自然な染め上がりである
  • 鉄鍋の代用としては0.2パーセント硫酸第1鉄が、よもぎ煮汁の代用としては0.2パーセントタンニンの使用が効果がある
 仕上げ乾燥  天日もしくは機械
  •  乾燥の工程に同じ
 製品  製了まで天日乾燥で20日以上、機械乾燥で6日以上とされている
  •  水戻しは、20倍量の水道水中1日2回100℃で10分間加熱後、60度で50分間加熱しその後20度で保温する方法が良かった

図  聞き取り調査から得られた乾なまこ加工法の実態と試験結果から得られた加工工程の改善点(稚内水試企画総務部)