水産研究本部

試験研究は今 No.331「栽培漁業技術研修で広がる日ロ交流」(1998年1月9日)

栽培漁業技術研修で広がる日日交流

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  栽培センターでは、昨年6月27日から8月1日まで36日間ロシアからの研修生(海外漁業協力財団:OFCFの海外研修生)を受け入れ、ニシン種苗生産技術を初めとして、栽培漁業に関する技術研修を行いました。

  受講したのは、ロシア連邦共和国サハリン漁業海洋学研究所(サフニロ:S akh NIRO)のサハリン海区海洋資源生物研究部長ベリカーノフさんで(写真)、栽培センターで受け入れた。ロシアからの四人目の研修生でした(表)。
    • 表
  サフニロでは、平成2年に始まった日日研究交流の進展に伴い、スケトウダラなどの漁業資源と海洋の共同調査や研究情報交換に加えて、栽培漁業技術についても関心が向けられ、研修生の派遣が続いております。

  一昨年から始まった日本海ニシン資源増大対策事業の一環として、栽培センターでは北海道サハリン系ニシンの種苗生産技術開発が研究課題の一つとなっており、また、昨年5月に栽培センターからの2人を含め4人のメンバーが、サハリンに渡り初めて向こうでニシンの採卵をしてきたことが、今回の研修のきっかけとなり、今年もまた、サフニロから研修生が1人やってくる予定になっています。ロシアと聞くと、政情不安定でどうなっているのかと首を傾けたくもなりますが、派遣されてくる研修生達はそれぞれ優秀な人材が多いようです。しかし、当のロシアではまだ人為的手法で漁業資源を増大させる試みは、サケ・マス類を除いては全くなく、現状では栽培漁業の分野は相互の研究交流にはなりえず、研修の性格からも北海道水試側からの一方的な技術情報提供の場になっています。しかも、ロシアの研修生は語学面でのコミュニケーションが十分でない場合が多く、研修内容の伝達や生活指導でも苦労してきたようです。ところが、今年度についてはベリカーノフ研究室長が英語会話にも堪能で、日本語で「アリカドーゴザ(イ)マス」などしゃべるように努力し、しかも誠実な人柄だったので、研修を担当した筆者にとっては大変ラッキーでした。お陰様で、研修や視察旅行での意志疎通もスムーズに行うことができた上、片言のロシア語も教えてもらうことができました。

  そのベリカーノフ研究部長の研修課題は、(1)生物餌料(ワムシ、アルテミア)の培養技術と栄養強化法、(2)ニシンの採卵技術および仔稚魚の飼育管理法、(3)北海道の栽培漁業(クロソイ、ホタテガイ、コンブ)に関する講習などでした。

  また、視察や訪問したところは、道庁水産部(現水産林務部)、北海道栽培漁業羽幌センター、北海道大学水産学部、北海道立漁業研修所、海外漁業協力財団と、多くの所に足を運び、栽培漁業に関する理解を深めることができた様子でした。

  研修報告書は、OFCFの研修担当者の「ロシア語での手書きでもよく、日誌程度のもので結構」という言葉どおりに、ロシア語の筆記体での報告書となりました。

  研修を終了して思ったことは、今までの研修担当者が感じていたこととほぼ同じことのようですが、(1)ビザ発券などのトラブルで日程調整を何度もしなけれぱならないようなことが生じないように、渡航の手続きの簡素化とスムーズな執行を望む、(2)研修生は、できれば日本語で挨拶ぐらいはできるように、少なくとも生活するのに不自由しない程度に英語がしゃべれるようにしてきて欲しいものです。(今回のベリカーノフさんは例外と言えるようです)。今後も、ロシアからの漁業に関する研修生の受け入れが北海道の水試で続くと思いますが、研修の機会を通して学術的交流のみならず、文化的交流、個人的情報交換も行い、日本とロシア(特にサハリン州)相互の理解がより一層深まることを期待したいものです。

(栽培漁業総合センター魚類部 主任研究員 川真田憲治)