水産研究本部

試験研究は今 No.439「ししゃも桁網の目合選択性について(漁具改良試験)」(2000年12月25日)

ししゃも桁網の目合選択性について(漁具改良試験)

  シシャモは北海道東部の太平洋沿岸にだけ分布する日本固有のキュウリウオ科魚類で、10~11月になると河川にそ上し産卵します。釧路・十勝海域を始め胆振・日高海域がシシャモの主漁場で、漁獲のほとんどがししゃも桁網漁業によって漁獲されています。ししゃも桁網漁業の主な漁獲対象は産卵のために遡上する2年魚(満1歳)と3年魚(満2歳)ですが、当歳魚や未成魚など商品価値のほどんどない小型のシシャモが混獲されることがあります。しかし、これらの小型魚の多くは翌年に産卵に参加する魚で、次年度には漁獲対象となる大切な資源でもあります。したがって小型魚の混獲を軽減することで、次期漁獲対象資源につながると考えています。

  現在、知事許可ししゃも桁網漁業の許可方針では袋網部の網目の大きさ(目合)は25ミリメートル以上(約13節以下)と制限されています。しかし、これが小型魚の保護に有効かどうかの研究はありませんでした。そこで水産試験場では網目の違いによって、漁獲物の魚体サイズをコントロールできるかを検討するため、目合の選択性試験を行いました。

  1999年10月25日に苫小牧沖の水深4~8メートルにおいて、目合の異なる5種類のシシャモ桁網(10、12、14、16、18節)を用いてシシャモを採集し、目合別に漁獲物の組成を検討しました(図1)。調査に使用した網は外網と内網の2重構造になっており、外網に18節の網を使用し、内網にそれぞれ10、12、14節の網を使用しました。つまり、内網を通り抜けた魚(脱落魚)が外網で漁獲される構造になっています。なお、16節については内網が入手できなかったため、16節の1重構造の網で調査しました。

  調査の結果、10節では470尾が採集され、このうちの120尾(26パーセント)が内網に残留しました。内網で漁獲された残留個体のうち84パーセントは雄個体で占められ、体長組成のモードは130~135ミリメートルでした。一方、10節の網目を抜けて18節の外網で漁獲された脱落個体は350尾(74パーセント)で、このうちの74パーセントは雌個体でした。脱落個体の体長組成のモードは110~115ミリメートルにみられ、残留個体より20ミリメートル小さくなっていました。12節では採集された253尾のうち76パーセントの190尾が網に残留し、残留個体と脱落個体の割合が10節の漁獲物とは逆転していました。12節の残留魚はそれぞれ雄が45パーセントで雌が55パーセントで、体長組成のモードは110~115ミリメートルと125~130ミリメートルにみられました。一方、12節の網目を抜けた個体には雄個体は1尾もみられず、脱落魚は120ミリメートル未満の雌個体・未成魚・当歳魚でした。14節では網目を抜けた個体は1尾もなく、120ミリメートル未満の小型魚もすべて内網で漁獲されていました。16節では体長101~141ミリメートルの個体が漁獲されました。

  上記の結果から、10節の網では体長130ミリメートル未満の個体(雌個体の大部分と雄個体の一部)は網目を抜けるが、130ミリメートル以上の個体(雄個体の多く)は網に残留することがわかりました。網目がこれより小さい12節の網では、すべての雄個体(115ミリメートル以上)と105ミリメートル以上の雌個体の一部は網に残留し、120ミリメートル未満の個体(雌個体の一部や未成魚)が網目を抜け、さらに目合の小さい14節になると、120ミリメートル未満の小型個体もすべて網に残留することが判明しました。さらに体長階級別に網目に残留するものと網目を脱落するものの割合(選択率)を算出したところ、選択率が50パーセントとなる体長は10節では約130ミリメートル、12節では約110ミリメートルでした(図2)。このようにししゃも桁網はシシャモに対して目合選択性が働くことが明らかとなりました。このことからししゃも桁網に利用する網地の目合を変えることによって漁獲物の大きさをある程度コントロールでき、小型魚の混獲を避けることができる可能性が示されました。
    • 図1
    • 図2
  さて、選択性試験からししゃも桁網はシシャモに対して目合選択性を持つことが分かったのですが、これだけでは十分ではありません。網目を抜けた魚が生き残ることができてはじめて、次年度の漁獲対象資源の底上げにつながると思います。では、はたして網目を抜けた魚が生き残ることができるのでしょうか?

  この問題を検討するために、船上で採集された魚の活力を調べました。船上で漁獲物を脱落魚(内網の網目を抜けたシシャモ)と残留魚(内網の網目に止まったシシャモ)に選別し、それらの一部もしくは全数を海水を満たしたコンテナに移し、約10分後に採集魚の遊泳状態を観察し、活力を判定しました。

  遊泳状態から採集魚の活力を調べた結果、コンテナに収容した直後はほとんどの個体は活力をなくして水面に浮かんでいる状態でしたが、多くの個体は時間の経過とともに活力を取り戻し、再び遊泳を始めました(図3)。網目を抜けた脱落魚についても64~92パーセントのものは活力を取り戻すことが確認できました(図4)。このことから少なくとも成魚については、脱落魚が生き残れる可能性が高いと思われます。しかし,雌は雄に比べて採集魚の活力が低く(図5)、雌雄ともに体長が小さい個体ほど活力は低い傾向にありました(図6)。12節の網を抜けた魚は10節の網を抜けた魚に比べて活力が低く、網目の大きさが脱落魚の活力に影響している可能性も考えられます。 また、今回の調査では船上に一旦ひきあげた魚について活力を調べていますが、実際には海中で網目を抜けていることを考慮すると、脱落魚が生存できる可能性はさらに高いものと考えられます。
    • 図3
    • 図4
    • 図5
    • 図6
  上記の試験結果から、ししゃも桁網漁業においては目合選択性を利用したシシャモ小型魚の保護や混獲の低減が十分に可能であると考えられました。しかしながら、今年度の調査では当歳魚がほとんど採集されておらず、今後当歳魚の選択性について再調査する必要があると思われます。また、脱落魚活性試験では体長の小さな個体ほど活力が低い傾向にあり、今回採集できなかった当歳魚や未成魚の脱落魚についても活力を検討する必要があると考えています。今後は適正目合について資源保護と経済面の両観点から検討するとともに、船上での作業効率を向上させるために袋網にチャックを取り付けるなどの漁具改良を検討する予定です。

(函館水産試験場室蘭支場 資源管理科 前田圭司)