水産研究本部

試験研究は今 No.447「噴火湾ホタテガイ養殖における採苗不良に対する考え方と函館水試の取り組み」(2001年4月25日)

噴火湾ホタテガイ養殖における採苗不良に対する考え方と函館水試の取り組み -卵巣の組織観察結果報告-

【採苗不良に対する考え方】

  近年、噴火湾ではホタテガイの採苗不良が大きな問題となっています。函館水産試験場、函館水産試験場室蘭支場と北海道栽培漁業総合センターでは、道ほたて漁業振興協会の委託を受けて、この採苗不良の原因解明に取り組んでいます。

  一般的に考えて、採苗不良の要因として以下の三つを挙げることが出来ます。(1)産卵異常による産卵規模の縮小。(2)浮遊幼生の生残率の低下。(3)浮遊幼生の湾外への流失。

  まず、要因(3)について考えてみます。噴火湾でのホタテガイ産卵期における最も顕著な海洋物理現象は、この時期特有の「ヤマセ」と呼ばれる強い南東風によって引き起こされるものです。この南東風によって湾の渡島側の表層水が胆振側へ運ばれるため、渡島側では浮遊幼生の密度が減少します。しかしながら、過去の渡島北部水産技術普及指導所のデータを見ますと、1994年や1996年にもこのような現象が起こっていますが、採苗は順調でした。また、1998年はこのような南東風による顕著な現象は見られませんでしたが、噴火湾全体でひどい採苗不良でした。したがて、(3)の「浮遊幼生の湾外への流出」は近年の採苗不良に共通した要因ではないと考えています。

  要因(2)について考えてみます。近年で最もひどい採苗不良であった1998年は小型の浮遊幼生(殻長260ミクロン未満)も非常に密度が低い状況でした。ですから、浮遊幼生の死亡が原因であるとしたら、個体発生の初期から死亡が大きかったことになります。この初期減耗のひとつとして、卵質等の内的な要因によって産み出された卵または幼生の死亡が高かったことが考えられます。

  要因(1)について考えてみます。噴火湾の養殖ホタテガイの卵巣には閉鎖卵母細胞(atretic oocyte)と呼ばれる異常卵が比較的高い比率で観察されることがわかっています。この異常卵は最終的に細胞質が溶け出して、周りの正常な卵細胞にも悪影響を与えると言われています。このような異常卵の比率が高い年には産卵異常になり、産卵規模が縮小し、採苗不良の要因になっているのではないかと考えられます。

  以上のことから、現在、函館水試では、卵巣内卵の質的悪化が近年の採苗不良に共通した要因である可能性が高いと考えています。

【卵巣の組織観察結果と函館水試の取り組み】

  まず、異常卵を見てもらいます(図1)。図1-1は比較的正常な卵巣の写真で、きれいな卵細胞が多く見られます。図1-2は異常卵率が41パーセントと高い卵巣の写真で、ジグゾウパズル状に変形したり、細胞質が流れ出した異常卵が多く見られます。図1-3は異常卵率が90パーセントと非常に高い卵巣の写真で、こうなると誰が見ても正常な生殖活動をしているとは考えられません。

    • 図1
      図1 噴火湾養殖ホタテガイの卵巣

      1:異常卵率  5パーセント
      2:異常卵率 41パーセント
      3:異常卵率 90パーセント
      (スケールバー:100ミクロン)

  2000年度は耳吊り養殖された2年貝(1+)と籠養殖された3年貝(2+)の卵巣内の異常卵の出現状況を比較しました。各個体ごとに写真を6枚ずつ撮り、正常卵と異常卵の数を数えたのが図2です。異常卵の比率がわかるように、比率の等値線を描きました(図中の説明を参照)。耳吊り養殖2年貝では、籠養殖3年貝より明らかに異常卵率が高いことがわかります。また、耳吊り養殖2年貝では異常卵率に個体差が大きいことがわかります。
    • 図2 噴火湾ホタテガイの異常卵率と正常卵率

      (図中の右上がりの実線は異常卵率の比率を示す等値線)

  このような差がどうして起こるのか(養殖方法か、貝の年齢か、貝のサイズか、貝の栄養状況のためか?)を調べ、よりよい卵をもつホタテガイを養殖するための指針作りが、2001年度以降の函館水産試験場の仕事です。

  そして、よりよい卵をもつホタテガイを養殖していくことが採苗の安定化につながっていくと、信じています。

(函館水試 馬場 勝寿)