水産研究本部

試験研究は今 No.711「系統群が異なるサケの種苗特性に関する研究」(2012月4年20日)

はじめに

  近年の集団遺伝学的研究により、北海道には5つの遺伝的に異なる地域集団があることが明らかにされています。それを受けて当場で実施している「サケ資源の系統群特性の評価に関する研究」の中で、回帰したサケ親魚の成長が河川間で異なることや外部形態に差異が見られることなどから、放流する稚魚の成長速度や降海のタイミングを示すスモルト化(体色が銀白色になる現象で海水での適応が可能)時期等の特性にも系統群間で違いのある可能性が考えられました。今回は,昭和50年代に千歳から網走(相生)に前期、中期、後期にかけて移殖が行われたことから、屋内飼育実験により、千歳と網走(相生)の採卵群(前期・後期)について比較をし、同一放流年級群の卵からふ化させた稚魚のスモルト化時期(体色評価)、鱗の初期発生時期の飼育データから明らかになったことについて紹介します。

試験方法

  平成22年9月前期、12月後期の千歳川と網走川(相生)の2河川4群を対象として、増殖事業用採卵群の中から受精直後卵を無作為に約1,000粒前後抽出し持ち帰り、平成23年5月下旬まで屋内飼育実験を行いその間の生物学的特性を確認しました。稚魚のスモルト化時期を把握するため魚体測定(尾叉長、体重)と色彩色差計(写真1)を使用してL値を10日に一度の頻度で、水槽内の稚魚を無作為に50尾、測定用個体としました。スモルト化時期を把握するためのL値は、サクラマスにおいても色彩色差計による体色の定量化がおこなわれており、明るさを表す明度L(理想的な黒を0、白を100とする指標)はスモルト化に伴い値は上昇傾向を示すことが知られています。また、スモルト化の進み具合の客観的評価となりうることが報告されていることからスモルト化時期のピークを把握するため使用しました。
  また、鱗の初期発生を調査するため、1~3日おきに各河川群5尾を固定しました。固定した稚魚の背鰭後端と尻鰭先端の間を切り、肉から体表だけをはがし1~2日染色し保存しました。その後、実体顕微鏡下で側線付近を観察し鱗が確認されたものは、鱗をはがし、スライドグラスで挟んで鱗長と隆起線本数を計数しました(写真2)。
    • 写真1
      写真1 色彩色差計を使用したL値測定
    • 写真2
      写真2 鱗の初期発生の調査過程

スモルト化時期(体色評価)

図1
(図1)スモルト化時期(体色評価)の推移
  スモルト化時期を把握するため色彩色差計を使用したL値では、千歳・網走川前期群は魚体重0.3グラムでL値30~31を示し 、その後魚体重0.8グラム前後でL値35.7のピークを示すのに比べ、千歳・網走川後期群は魚体重0.3グラムでL値32以上と高い値を示し、その後魚体重1.1グラム前後でL値35.8のピークを示し前期群よりなだらかにL値が上昇する傾向がわかりました(図1)。 

鱗の初期発生

・鱗の発生が最初に認められたふ上開始から日数の早い順では網走川後期群の14日目、平均尾叉長は44.7mm。次いで千歳川後期群の19日目、平均尾叉長は45.8mm。網走川前期群の22日目、平均尾叉長は47.5mm。千歳川前期群の24日目で稚魚の平均尾叉長は44.9mmでした。このことから、千歳・網走川前期群では鱗の発生が最初に認められたのはふ上開始から22~24日目、千歳・網走川後期群では14~19日目で、千歳・網走川ともに後期群での鱗の発生が早く、また、後期群では千歳川に比べ網走川で鱗の発生が早い傾向がわかりました。
下図の青マーカーが尾叉長の推移と赤マーカーが鱗の発生時期、緑線が尾叉長の平均値、赤マーカーと赤線が鱗長の平均値の推移を表しています(図2)。
    • 図2
      (図2)鱗の発生時期と尾叉長・鱗長の推移

まとめ

 ・スモルト化時期を把握するため色彩色差計を使用したL値では、千歳・網走川後期群のL値はふ上後の魚体重0.3gで32と前期群より高い値を示しました。また、鱗の初期発生でも千歳・網走川後期群での鱗の発生が前期群より早い傾向がわかりました。これらの種苗特性から後期群は、その地域の降海適期にともなう魚体の機能はふ上後早くから整っていると考えられました。今後、全道の主要な増殖河川における屋内飼育実験からのデータを集積し解析をすることによって、地域に合った種苗特性を最大限に活かす飼育・放流方法の見直し、改善に向けた提案が可能となると考えられます。

 ※本調査の実施にあたり、(社)日本海さけ・ます増殖事業協会、(社)北見管内さけ・ます増殖事業協会のご協力をいただきました。
(さけます・内水面水産試験場 さけます研究G 神力 義仁)

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