水産研究本部

試験研究は今 No.702「アカボヤの人工採苗および中間育成技術の開発と養殖事業化の検討」事業始まる(2011年12月16日)

「アカボヤの人工採苗および中間育成技術の開発と養殖事業化の検討」事業始まる

  アカボヤHalocynthia aurantium は主に三陸地方で水揚げされているマボヤHalocynthia roretziと比較すると、商品価値や食料としての認知度は低いものの、日本では北海道東部根室湾で主に生産されるこの地域の特産種であり、味はマボヤに劣らず美味で、単価も高く、機能性食品と期待される優れた食材です。根室湾で最もアカボヤを漁獲している野付漁協では、近年漁獲量が急減し、平成20、21年は禁漁にするほど資源は悪化している。このため、早急な資源増大が望まれています。また、北海道東部海域だけでなく、オホーツク海や噴火湾でも養殖対象種としてアカボヤを検討している地域が多く、増養殖の技術開発が望まれています。増養殖の技術開発には種苗の確保が不可欠なことから、平成20~22年まで道総研釧路水試と栽培水試と共同で実施した事業で天然採苗の技術開発を目指したものの、毎年、高密度で安定的に天然海域において採苗するのは困難であると判断されました。しかし、人工採苗によって種苗を確保できる可能性が示唆されました。

  そこで、釧路水試と栽培水試では再度陸上での人工採苗技術や中間育成(沖出し)の技術を確立するとともに、増殖(地蒔き式等)や養殖(垂下式等)のパイロット試験を実施し、アカボヤの増養殖を図る技術を開発するための基礎資料の収集と事業化の可能性を検討することを目的とした上記事業を平成23~26年までの4年間、浜中漁協、根室湾中部漁協、野付漁協で実施することになりました。

  初年度の今年は、これまで人工採苗の経験のある野付漁協を除いた浜中漁協、根室湾中部漁協ではすべてが初めてだったため、水槽の設置、採苗器の形状・材質、親ボヤの確保・飼育、採苗器への付着等について、マボヤで陸上採苗を実施している宮城県や岩手県の採苗マニュアルや宮城県のマボヤ研究者から電話で収集した情報を参考にしながら、漁業者や漁協、役場、水産技術普及指導所の方々と共同で実施しました。

  浜中漁協では10月8日に水槽を設置し(写真1)、10月19日に産卵用のアカボヤを収容し(写真2)、その後天然素材ロープにアカボヤ幼生の付着を確認し(写真3)、稚ボヤまで発生が進んだ種苗を(写真4)、11月9日に沖出し(写真5)を行いました。根室湾中部漁協では10月19日に水槽を設置後、11月18日に沖出ししました。野付漁協では10月14日に生殖巣を切り出し、人工授精法による採卵を行い、ホタテガイ貝殻をリング状にした採苗器に種苗を付着させ、12月3日にこれらを沖出しし(写真6)、今年度の野外調査はすべて終了しました。

  種苗の付着は根室湾中部漁協では沖出しまでロープ1センチメートル当たり平均2個確認できましたが、浜中漁協では始めロープ1センチメートル当たり平均4個程度あったものが、沖出し時に確認されなくなってしまいました。また、親ボヤも根室湾中部漁協では1か月以上生きていたものが多かったのですが、浜中漁協では2週間程度でほとんどが死んでしまいました。これらの原因については今のところ不明で、このようなわからないことがいろいろと出てきました。

  今後は、これらの不明な点を明らかにするとともに、沖出しした種苗の追跡調査を行い、成長や生残等を把握していく予定です。さらに種苗は採苗施設から搬入後、沖出しするまで、空中に晒されることから、稚ボヤの干出試験や低温暴露試験を実施し、何時間位までの乾燥に耐えられるか、何℃位の低温に耐えられるかを明らかにしていく予定です。

  今後の成果にご期待ください。

                        (釧路水産試験場 佐々木 正義)
    • 写真1
    • 写真2
    • 写真3
    • 写真4
    • 写真5
    • 写真6

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