水産研究本部

試験研究は今 No.701「ホッコクアカエビの白化及び黒変について」(2011年12月8日)

はじめに

  北海道におけるホッコクアカエビ(以降、エビとする)は、漁獲量が2,800トン(国内漁獲量の約6割)、漁獲生産額が約27億円で本道の重要な水産物の一つとなっています(平成21年度水産現勢)。全国的には「甘えび」、北海道では「南蛮えび」という名称で、食卓でも馴染みのあるエビです。このエビは主に生鮮で刺身や寿司ネタとして利用されていますが、漁獲後の時間経過に伴い、体表の白化や頭部の黒変が生じ、売値が半値になることもあるため、生産地から生鮮エビの品質保持技術開発が強く要望されています。水産試験場では、流通上問題となるエビの白化および黒変を抑制する方法について検討した結果、それらを抑制する技術を開発しましたので、その概要を紹介します。

白化とその抑制について

 エビの体表に見られる白化は、その外骨格(殻)が白濁し、外観が白く見える現象です。市場関係者からは「色とび」、「色あせ」と呼ばれており、実際に白化したエビを見ると鮮やかな赤い色が退色(消失)したように見えます。この現象は、殻中に存在するカルシウムが表面に析出するためと言われています。実際に、エビの殻表面を顕微鏡で拡大して見てみると、白化した個体では、白い結晶が殻全体に析出した状態が観察されました(写真1)。その原因として、エビが大気中で乾燥したり、保管中に凍結するような温度まで冷却されてしまうことが考えられました。試験を行った結果、、次の二点について対応することで、エビの白化を抑制できることがわかりました。

(1) 乾燥防止:ろ過海水で湿らせたスポンジシートやペーパータオルなどで、エビ表面を覆う。
(2) 凍結防止:下氷の上に断熱シート(ウレタン製シートなど)を敷き詰め、この上にエビを乗せる。
    • 写真1

黒変とその抑制について

  エビの保存中に頭胸部で見られる黒変は、アミノ酸のチロシンが酵素(チロシナーゼ)により、人間の頭髪に見られる色素物質と同じメラニンへ変化することで生じる現象です(写真2)。現在、エビの黒変を抑制するために、酸化防止剤である亜硫酸水素ナトリウムが使用されています。しかし、亜硫酸水素ナトリウムには食品添加物としての使用基準(むき身中の残留量が二酸化イオウとして100ppm未満)があり、生産者などからは、この添加物を使用せずに黒変を抑制する新たな方法が要望されています。水産試験場では、この要望を受けて、いくつかの酸化防止剤や殺菌剤を用いてエビの黒変抑制効果について検討しました。
  その結果、アスコルビン酸ナトリウムに亜硫酸水素ナトリウムと同等以上の黒変抑制効果が認められました。「アスコルビン酸」は天然物の「ビタミンC」として知られています。

  ホッコクアカエビは、漁獲されると船上で選別され、生きた状態で冷却海水を満たした水槽に移されます。その後、市場での競りに向けた箱詰め作業を行うまで蓄養されます。これを踏まえ、エビの漁獲から箱詰めまでの間で、黒変抑制処理を現場で容易に行える方法について検討し、二つの方法を見出しました。一つめの方法は、短時間で処理できることを目的としたもので、アスコルビン酸ナトリウムを10パーセント含有する海水にエビを1分間浸漬させるものです。
  二つめの方法は、漁獲後のエビの選別から競りに向けた箱詰めまでの作業において、余計な作業を組み込まないことを目的としたもので、漁船内でエビの蓄養に使用される冷却海水にアスコルビン酸ナトリウムを0.2パーセント含有させるものです。エビはこの0.2パーセントアスコルビン酸ナトリウムを含んだ蓄養海水で箱詰め作業まで生かしておくだけです。これら二つの黒変抑制方法でそれぞれ処理したエビと、亜硫酸塩で処理したエビを、4度で2日間冷蔵保存して黒変の有無を比較しました。その結果、アスコルビン酸ナトリウムを用いた二つの方法は、どちらも保存2日間、亜硫酸水素ナトリウムを用いた方法と同様に、エビ頭胸部の黒変率を20パーセント未満に抑制できることがわかりました(表1)。この保存試験では、エビの乾燥を防ぐために、ろ過海水を含ませたペーパータオルでエビの表面を覆いました。
  このため、殻表面の白化も同時に抑制することができました。 
    • 表1

まとめ

   以上の結果から、ホッコクアカエビを図1に示すように、(1)穴の開いた発泡スチロール箱に、フレーク氷を敷き(箱容量の半量程度)、(2)断熱シート(例えば、ウレタン製シート)をフレーク氷の上に置き、(3)黒変抑制処理した活エビを断熱シートの上に並べ、(4)海水で湿らせたペーパータオルなどの保水性の高いシートでエビの表面を覆い、(5)蓋をする。以上の手順で箱詰めした後、流通(保存)させることにより、箱詰めから2日間、白化および黒変を抑制することができます。
    • 図1

おわりに

この成果は「ホッコクアカエビの白化及び黒変抑制マニュアル」としてまとめ、マリンネット北海道ホームページに掲載しました。
本研究を実施するに当たり、余市郡漁業協同組合ならびに同漁業協同組合えび篭部会から多大なるご協力をいただきました。ここに深謝を表します。

(中央水産試験場 加工利用部 菅原 玲) 

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