水産研究本部

試験研究は今 No.502「噴火湾の養殖ホタテガイ採苗安定化試験から」(2003年6月27日)

噴火湾の養殖ホタテガイ採苗安定化対策試験から(PART 2)

  今年の噴火湾のホタテガイ採苗は,今のところ地場まかないできるものと期待されています。しかし,噴火湾では,1988年から1999年の年の間に4回(1992年,1993年,1998年,1999年)採苗不良にみまわれています。

  不良年ではホタテガイの産卵盛期が遅れ,5月中旬以降にずれ込む傾向が見られました。

  また,これらの年の産卵期の平均水温は上記12年間の平均水温と比較すると低い傾向にあり,産卵盛期が遅れる要因の一つと考えられました。

   採苗不良の年には他海域からの種苗購入が必要になるなど,ホタテガイ養殖漁業者は多大な経済的負担を負います。このため,採苗の早期予測および採苗を安定させるための方策への要望が強く,2000年度から3年間函館水産試験場を中心として採苗の安定化を目的とした試験が行われました。

  栽培漁業総合センターでは,この一課題である「養殖現場における産卵促進手法の検討」に合わせ,室内で(1)産卵誘発手法を用いて採卵し,卵およびその後の発生状態を観察することにより,産卵促進を行うための最適な時期を推測する,(2)産卵や放精の刺激としての昇温条件を明らかにすることを目的とした試験を行ってきました。ここでは(2)について,結果の概要をご紹介します。

実験の方法

  実験には,八雲町地先の垂下深度15メートルにおいて,耳吊りで本養成された養殖2年貝を用いました。これらのホタテガイは,2000年4月24日と5月8日、2001年4月23日と5月9日に当センターに搬入し,養殖桁での垂下深度とほぼ同じ水温に設定した恒温水槽に収容しました。2,4日間飼育したあと,実験を行いました。

  実験には,飼育温度からほぼ2度,4度,6度,8度高い昇温区と昇温しない自然海水温区の5試験区を設け,飼育水温から各水温区に貝を直接移すことにより水温刺激を与えました。各水温区には,調温のためFRP製角型水槽(1.0×2.5×0.5Hメートル)をウォーターバスとして用い,その中に10リットルのろ過海水を入れた15リットルまたは20リットル容量のスチロール製角型水槽を14,16個設置しました。各スチロール水槽には1個体ずつホタテガイを収容し,止水条件下でガラス管を用いて通気しました。実験時間は5時間とし,その間に産卵または放精した個体数を調べ,産卵数を計数しました。
    • 写真1
      写真1 実験の状況(8度昇温区)

産卵刺激のための昇温条件

  実験開始5時間の産卵誘発応答率(昇温刺激を与えた貝の中で放精・産卵したものの割合)と昇温幅の関係を求め,図1に示しました。また,産卵誘発実験前の生殖巣指数(G.I)として,それぞれの同一試験群のホタテガイの生殖巣指数を示しました。

  産卵誘発応答率は,2000年4月26日では自然海水区と2度区で0パーセント,4度区で7.1パーセント,6度区で14.3パーセント,8度区で35.7パーセントであり,昇温幅が大きいほど高い割合を示しました。他方,5月10日ではそれぞれ0パーセント,7.1パーセント,0パーセント,14.3パーセントであり,全般に応答率が低いなど4月下旬の傾向とは異なっていました。2001年4月27日では,自然海水区と2度昇温区で0パーセント,4度昇温区で35.7パーセント,6度昇温区で64.3パーセント,8度昇温区で78.6パーセント,5月11日ではそれぞれ0パーセント,14.3パーセント,71.4パーセント,78.6パーセントであり,昇温幅が大きいほど応答率が高い傾向がみられました。

  以上のことから,昇温による水温差が大きい(昇温幅が大きい)ほど,産卵誘発応答率は高くなる傾向があることがわかりました。また,同じような水温差でも2001年の方が産卵誘発応答率が高かったのは,2000年より生殖巣指数が高い貝を用いたためと考えられました。
    • 図1

産卵数

  産卵数は,2000年4月26日の4度昇温区と6度昇温区ではそれぞれ1個体で1,078万粒と608万粒,8度昇温区では4個体で平均543万粒(302~1,402万粒)でした。5月10日では4度昇温区の1個体で821万粒でした。

  また,2001年4月27日の4度昇温区では3個体で平均1,198万粒(785~1,468万粒),6度昇温区では1個体で585万粒,8度昇温区では2個体で平均624万粒(488~760万粒)でした。5月11日の4度昇温区では1個体で453万粒,6度昇温区では5個体で平均1,394万粒(745~1,788万粒),8度昇温区では5個体で平均1,232万粒(510~1,690万粒)でした。(図2)

  これらの結果からは、昇温幅が大きいほど平均産卵数が多いという傾向はみられませんでした。
(栽培漁業総合センター貝類部 伊藤義三)
    • 写真2
      写真2 ホタテガイの産卵状況
    • 図2