水産研究本部

試験研究は今 No.503「サケの給餌は月・水・金」(2003年7月11日)

「サケの給餌は月・水・金」 サケ稚魚隔日給餌、最新の試験結果について

    • サケ稚魚隔日給餌、最新の試験結果について

研究の目的

  現在、北海道では毎年110カ所以上の孵化場から10億尾ものサケ稚魚が放流され、沿岸に来遊するサケの量は約4000~5000万尾となっています。放流事業の成果により漁獲が増える一方、魚価の低迷のため一時は600億円を超えた漁獲金額は400億円を割るという事態を招いています。今後サケの栽培漁業を続けていくためには種苗生産コストの低減など、種々の合理化が求められています。

  水産孵化場では中央水産試験場と共同して、昨年度から3年計画で「給餌方法の改善によるサケ稚魚養成効率化試験」の題名のもと、サケ稚魚に対する隔日給餌法の開発に取り組んでいます。当場では、池産サクラマスの養成に隔日給餌を取り入れ飼育管理の軽減化に成果をあげてきました。本研究ではサケ増殖事業の効率化のため、サケ稚魚の養成に隔日給餌方法を取り入れ、適正な給餌条件を検討して方法を確立すること、それらの稚魚が放流種苗としての適しているかを確認することを目的としています。               

  今回は2003年3月から5月まで行った、最も新しい水槽試験の結果について報告します。

試験の内容

  今回の試験では0.4グラムサイズから放流に適当な1.5グラムサイズまでの隔日給餌を行いました。実験には千歳川系のサケ稚魚を使用しました。2003年2月6日に浮上した稚魚に毎日給餌で餌付けを開始し、4週間後の3月6日から隔日給餌の試験を開始しています。飼育には湧水かけ流し式の60リットルアクリル水槽を用いました。期間中の水温は8~9度でした。餌料は事業で使われる通常のマス用配合餌料を使いました。給餌の設定は毎日給餌群(週6回:月~金給餌)と隔日給餌群(週3回:月、水、金 給餌)とし、それぞれ90尾ずつ2ロットを設けました。毎日の給餌率(体重に対する餌の重量)はライトリッツ表に従い、隔日群は毎日群の2倍を与えました。つまり、期間中に与える総給餌率は同じとなります。これらの試験魚は2週毎に全個体の体重および体長を測定し、同時に10個体を取り上げて体成分の分析用サンプルとしました。試験は5月1日に終了しました。

結果

  図1に実験魚の体重の変化を示しました。実験魚は各群とも良好な成長を示し、5月1日までにすべて予定の1.5グラムを超えています。これは放流種苗としてサケを養成するのに十分な値です。また終了時までの各群の体重の変化を見ると、4群の間には大きな差は見られませんでした。
図1 サケ稚魚の体重の変化

  表1に試験のデータをまとめました。瞬間成長率と餌料効率については毎日給餌群がやや高い傾向にありましたが、その差は僅かです。いずれにせよ瞬間成長率は2.5パーセント、餌料効率は100パーセントを超えており良好な成績と言えます。一方肥満度については隔日給餌群が毎日給餌群より高い値を示しました。

表1 サケ稚魚隔日給餌試験の要約
  肥満度と関連して、隔日給餌群と毎日給餌群の間には体型の差も認められ、体高・体幅・腹部の長さ(いずれも尾叉長に対する比)は隔日給餌群が大きい傾向にありました(図2)。つまり、隔日給餌の魚は体長が短いものの、体の厚みがある太った魚となることがわかりました。また解剖したところ隔日給餌の魚は消化管が太くなっていることがわかりました。腹部が長くなっているのはこれに起因しているものと思われます。
    • 図2 毎日給餌(上)と隔日給餌(下)の体型の違い 隔日給餌の魚は体長が短いが体高・体幅が大きく、腹部長が長い
  今回の試験結果から、サケ稚魚は0.4グラムサイズからでも十分隔日給餌が可能であることが示唆されました。また体型が変化することから、給餌間隔を変えることにより体内の代謝が変わってくる可能性が示唆されました。ネズミなどの哺乳類では給餌間隔を変えることで代謝が変化することが知られており、サケの場合も同様なのかも知れません。これについては現在、中央水産試験場で体成分の分析を行っておりその結果を待ちたいと思います。

  ところで、毎日給餌群と隔日給餌群の間には放流種苗としての特性に差があるのでしょうか。これについて、試験終了後一部の魚を用いて遊泳力試験と海水適応試験を行いました。これらのデータは現在取りまとめ中ですが、どうやら遊泳力・海水適応能力とも毎日給餌群と隔日給餌群の間に顕著な差はないようです。これについてはまた次の機会に報告したいと思います。

  長い間、サケ科魚類の稚魚養成は毎日給餌が常識とされてきました。今回の試験結果はその「常識」に一石を投ずるものと思われます。
水産孵化場 養殖技術部 内藤一明