水産研究本部

試験研究は今 No.513「小型精密音響測深器を用いた藻場調査」(2003年12月5日)

小型精密音響測深器を用いた藻場調査

はじめに

  ハタハタ初期生態解明調査は、ハタハタの幼稚仔の分布、産卵場の特徴、規模等を明らか にして再生産関係を検討することを目的としています。産卵場の特徴と規模を把握するには、ハタハタの産卵基質(産みつける海藻)の特徴を明らかにしなければなりません。ハタハタは 、産卵基質として主にウガノモク(写真1)を利用しています。ウガノモクは水深10メートル付近まで見られます。海水の澄んだ日本海沿岸では航空写真などを用いて、水深10メートルの深いところまで広範囲に海藻の状況を確認することができますが、太平洋沿岸では海水に濁りがあるため同じ方法が使えません。より簡単に広範囲にウガノモクの分布を調べる方法が無いかと考えていたところ、海底の探知に使われる音響測深器を使ってアマモの分布を調べた例があることを知りました。これで調べられないか?物は試しでやってみることにしました。都合の良いことに、ウガノモクは藻体に浮きを持ち垂直に海面に向けて伸びる海藻で、4メートルもの長さとなります。調査海域のえりも町では、それ以外にこのような形態の海藻は見られません。ウガノモクが繁茂する初夏であればウガノモクを判別できるかもしれません。判別可能であれば、これによって分布状態が明らかになり、産卵場の特徴と規模を推定することが可能となります。
    • 写真1 卵塊が付着したウガノモク(えりも町本町地先)

音響測深器とエコー記録

  今回の調査で用い た機器は、船に設置できる小型精密音響測深器(カイジョー社製PS-20型)です。目的とする海藻は、海底を探知するソナーにとってはノイズとなるため、通常はノイズとして取り除かれますが、調査ではノイズを除去しないよう設定し、また、ソナー感度によって映り方が異なるため、ソナー感度も手動で設定しました。ウガノモクが最も成長し繁茂している6月に水深 2メートルから10メートルの間で、沖 陸方向(約210度もしくは40度)に調査線を設定し、調査を実施しました(図1)。船上でGPSを用いて調査開始時から2分毎もしくは1分毎に船の位置を記録し、船の移動速度と移動距離を算出、記録紙上の経過時間から繁茂位置を確定しました。エコーとして映る海藻はウガノモクのほかに、スガモ、コンブがありました。ウガノモクと混在するスガモは 、海底面を失探する(判別できなくなる)ことと数珠上のエコーでないことで、コンブは、海底面上に雲のようなエコーが現れることで区別しました。ウガノモクは 、数珠状のエコーで、海底面を判別できることで区別しました (図2)。エコー記録から判別したウガノモクの本数を数えて10メートルごとの分布密度を調べました (図3)。図に示したLine13では、ウガノモクはコンブの分布がなくなる 4メートル以深から分布がみられ、岩盤斜面と 、根と呼ばれる沖の岩盤に主に分布していました。他の調査線でも同じように岩盤斜面と沖の孤立した岩盤に分布していました。このように、今後、調査海域や調査線を追加して いくことで、ハタハタの産卵基質であるウガノモクの平面分布図を作成することが可能となるかもしれません。

問題点

  調査を進める中でいくつかの問題点も明らかになりました。第一に、調査水深が2メートルから 3メートル以深に限られることがあります。ソナーの設置水深( 1メートル)とエコーが表示されない領域が 1メートル程度あるため、 2メートル以浅のデーターが取得できないことと、スガモがソナーに絡まり映像が得られないからです。第二として 、実際の密度を過小評価している可能性があることです。海藻判別の条件として2メートル以上の長さの海藻をウガノモクとしたため、 2メートル未満のウガノモクを計数していないからです。エコーでは最大 10本/10平方メートル程度の本数ですが、昨年度 、このライン近傍でビデオによる卵塊分布調査を実施した際には、5平方メートルで30本以上の分布がみられた箇所もありました。第三として、実際の分布との補正が困難な点です。昨年度行なった1平方メートルの海藻採取ではソナーで求めた繁茂位置の精度が40センチメートルであるため、ほとんど誤差の範囲にあるため比較することができませんでした。そのため新たな方法を検討する必要があります。1つの方法として、水中に間縄を設置して同じ場所を水中ビデオとソナーで調査する方法を検討しています。

これからについて

  産卵基質となるウガノモクそのものについても、年によってその分布が変化するのか、何年経つと卵を産みつける大きさにまで成長するのか、など明らかにしなければならない課題が残っています。分布調査以外にも、これらについて徐々に明らかにしていきたいと考えています。

  最後に、調査計画の策定から調査実施にあたるまで様々なご協力をいただいた日高地区水産技術普及指導所、えりも町水産農林課、えりも町漁業協同組合、カイジョー(株)北海道支社の皆様方に心よりお礼申し上げます。
(函館水産試験場室蘭支場 資源増殖科 奥村裕弥)