水産研究本部

試験研究は今 No.515「網走湖産シラウオの生活史」(2004年1月15日)

網走湖産シラウオの生活史

はじめに

  シラウオは日本沿岸や朝鮮半島の東海岸から沿海州にかけての汽水域に生息する小型魚類です。漁獲量は日本全体でも毎年1,000トン前後とそれほど多くありませんが、1kgあたりの価格が高く地域特産の重要な水産資源になっています。北海道では主に網走湖で漁獲されており、生鮮で東京や札幌方面へ出荷されるほか、地元では「シラウオ祭り」が開催されるなど観光資源としても重要な役割を果たしています。しかし、この網走湖のシラウオ漁業は現在でも手探りの状況にあり、漁獲量も毎年大きく変動しています。この貴重なシラウオを絶やさず将来に渡り利用して行くためには資源管理が必要と考えられますが、網走湖に生息するシラウオの生態はほとんど知られていません。水産孵化場では網走湖産シラウオの資源管理を目指し、先ず、どのような一生を過ごしているのか生活史について調べてみることにしました。

漁業情報から想定される生活場所の移動

  網走湖のシラウオは専らワカサギの混獲魚として獲られているのですが、総てのワカサギ漁で漁獲されているわけではありません。シラウオの漁獲時期は秋季曳き網漁の前半である9~10月に限られており、漁期の途中で姿を消すとそのまま春までシラウオを見ることはありません。湖面が結氷する冬季にも氷下曳き網漁業が行われますが、これに混じることもありませんのでシラウオは他の場所へ移動している可能性が考えられます。漁業日誌を使ってシラウオの資源量指数(漁獲量キログラム/曳き網1回)の変化を調べたところ、やはり漁期の途中で減少率が大きく変化する現象が見られました(図1)。このこととシラウオの移動には何らかの関連があるのではないかと考えています。

フィールド調査

  漁業情報より生活場所の移動が考えられましたので、次に、実際に移動の様子を確かめてみることにしました。網走湖とその流入河川(網走川、女満別川)、および流出河川(網走川)において採集調査を行った結果、海と連絡する網走川でシラウオが降河(図2)、あるいは遡上(図3)していることが確かめられました。また、降河直後と考えられる10月や遡上直前と考えられる4月には網走沿岸での生息も確認することが出来ました。以上から、網走湖のシラウオが一生を通じて湖と沿岸との間を行き来していることはほぼ間違いないものと考えられました。

耳石の化学分析から見たシラウオの生活史

  漁業やフィールド調査の情報をつなぎ合わせることによって生活史の全体像を想定することが出来ましたが、個々の情報は断片的なものが多く個体レベルに適用できるような精密なものではありません。そこで次に、個体毎の生活履歴を知る方法について考えてみることにしました。魚類が生息する環境水中には様々な微量元素が含まれています。これらの元素は魚の頭部にある耳石に僅かに吸収され、長期間に保存されていることが知られています。ストロンチウム(Sr)という元素は海水では淡水の約100倍も多く含まれているため、耳石のSr濃度を調べることにより過去の生息環境が海水であったのか、あるいは淡水であったのか推測することが出来るのです。この方法を使って網走湖産シラウオの生息場所に関する履歴を分析した結果、生活史は当初の想定よりも少々複雑であることがわかってきました(図4)。すなわち、耳石を調べた19個体中16個体には予想通り降海履歴が認められましたが、それ以外にも湖内に残留したと考えられるものが僅かに見つかりました(図5)。また、耳石から降海時の体長を逆算すると小型から大型のものまで様々であることがわかってきました。このサイズ差が降海時期の違いに基づくものなのか、あるいは成長差によるものなのか現段階でははっきりしませんが、今後、日齢分析の結果を加えることにより、いつ、どれ位の大きさで海に降っているのか明らかになると考えています。
(水産孵化場資源管理部湖沼管理科 隼野寛史)
    • 図1
      図1. 網走湖におけるシラウオの資源量指数(キログラム/曳き網)と累積漁獲量との関係
    • 図2
      図2. シラウオ降河時期の網走湖および網走川(流出河川)におけるシラウオの消長
    • 図3
      図3. シラウオ遡上時期の網走湖および網走川(流出河川)におけるシラウオの消長
    • 図4
      図4. 網走湖産シラウオの生活史想定図
    • 図5
図5. 耳石ストロンチウム(Sr)濃度*の変化
 個体別に耳石の大きさから体長を逆算してあてはめた
*カルシウム(Ca)濃度に対する濃度の比(Sr/Ca×103