水産研究本部

試験研究は今 No.516「やわらか煮ダコ加工法の裏ワザ~!」(2004年1月20日)

試験研究は今 No.516「やわらか煮ダコ加工法の裏ワザ?!」(2004年1月20日)

【やわらか煮ダコ加工法の裏ワザ?!】

はじめに

  国内で漁獲されるタコは約5万トン/年で、そのうちの約4割を道産タコ(主にミズダコ)が占めています。網走管内では約900トン/年(網走の水産 平成13年度)が漁獲されていますが、主に煮ダコや輸入タコの代替として生冷凍で出荷されています。  

  しかし、マダコや輸入ダコの漁獲不振や為替相場の影響により、価格の変動が大きいことから、高次加工による付加価値の向上を求める声が高まっています。また、ミズダコは加熱すると肉質が硬くなる特性を持つことから、軟らかい煮ダコ製品の開発が強く望まれています。このため、網走水試紋別支場では、ミズダコの新たな需要を喚起するために、ミズダコの成分等を把握し、肉質の軟化技術を確立するとともに、軟らかい食感を持つミズダコ加工品の開発を目指しました。なお、この試験は平成14年度の関連機関強化支援事業(国費補助)で行いました。
ア)ミズダコの原料性状
  平成14年6月、11月、12月に紋別沖で漁獲された体重4.9~22.6キログラムのミズダコ18杯(匹)について、各個体の右第1腕を採取し、一般成分と遊離アミノ酸を測定しました。

  ミズダコの一般成分では、体重が重い個体ほど水分が高く、逆にタンパク質は低くなりました。(p<0.01)(図1)。特に、水分では体重4.9キログラムの個体(最小)が77パーセントであるのに対し、体重22.6キログラムの個体(最大)は84パーセントと約7パーセントの差がみられました。この水ぶくれにはタコもかなり気をつかっているようで、体内の浸透圧調整は無機塩類の増加で対応しているようです。
 図1 ミズダコ体重別による水分とタンパク質
  遊離アミノ酸は体重によりその含有量に大きな差はなく、平均値で1,521ミリグラム/100グラムでした(図2)。今回データは示していませんが、これら遊離アミノ酸の約5割はタウリンで占められています。海洋生物にとってタウリンは無機塩類と同様に体内の浸透圧調整の働きをする物質ですが、私たち人間にとっては動脈硬化や血栓の予防に加え、心臓の働きを強めたり、不整脈を改善する効果があるともいわれています。
    • 図2
      図2 ミズダコ体重別による遊離アミノ酸
イ)やわらか煮ダコの加工法
  ミズダコの肉質が加熱時に硬くなるのを防ぐ技術(裏ワザ)として、(1)原料の凍結解凍処理では、緩慢(-20度)もしくは急速(-45度)凍結した脚部を、それぞれ煮熟(100度,30分)し、加熱後の肉質の硬さ(応力)をレオメーターを用いて比較しました。対照として未凍結(生の脚部)についても同様に行いました。また、(2)高圧蒸煮処理では、凍結解凍した脚部を100度で10~30分間の煮熟後、100度、110度、120度の高圧蒸煮(30分)をそれぞれ行い、(1)と同様に肉質の硬さや色調などを比較しました。
裏ワザ_その1
図3
図3 原料の凍結解凍処理による肉質の硬さ
  原料の凍結解凍処理は、未凍結(生)に比べ、煮熟後のタコの肉質が2~5割程度軟らかくなることがわかりました(p<0.05)。

  また、今回の試験では緩慢凍結に比べ急速凍結を行ったほうが加熱後の肉質が軟らかくなる結果が得られました。(p<0.05)。
裏ワザ_その2
  高圧蒸煮処理によるタコの肉質は、蒸煮温度が高くなるほど軟化する傾向がみられました(図4)。しかし、褐変の進行状況(写真1)や発生するドリップ量から判断すると、煮熟を30分間行った後に、110度で高圧蒸煮(30分)する条件が最適であると考えられました。
    • 図
    • 写真1 高圧蒸煮処理による肉質の褐変

      左から順に100度、110度、120度

  これらの結果から、ミズダコを原料した「軟らか煮ダコ」と「レトルト蛸」の加工法マニュアルを作成しました(図5,写真2)。今後、これらの製品がミズダコの需要拡大や付加価値向上の一役を担うことが期待されます。
(網走水産試験場 紋別支場 蛯谷 幸司)
    • 図5
    • 写真2 「レトルト蛸」