水産研究本部

試験研究は今 No.520「ワカサギ孵化場にビン式孵化器を導入したら~」(2004年3月23日)

試験研究は今 No.520「ワカサギ孵化場にビン式孵化器を導入したら?」(2004年3月23日)

ワカサギ孵化場にビン式孵化器を導入したら?

はじめに

  「試験研究は今No.470」でご報告したように、石狩湾漁業協同組合石狩支所※が管理運営しているワカサギ孵化場では、ワカサギ卵を木枠にシュロ皮を挟んだシュロ盆に付けて孵化まで飼育管理を行っています。ところが、ミズカビの繁茂がひどく孵化率が低い傾向があり、その主な原因は飼育水のS.S.(懸濁物量)が高いことによって卵表面に懸濁物質が付着して斃死につながることが推測されました。そこで、シシャモなどで導入されているようにビン式孵化器による卵管理技術の導入による改善を図り、現在調査研究中です。今回はその主な経過をご紹介致します。
※(石狩漁業協同組合は平成16年1月1日に合併し、石狩湾漁業協同組合石狩支所となりました。以下石狩支所と記します。)

シュロ盆を用いた卵管理の様子

  写真1は、従来のシュロ盆による様子です。写真は孵化が始まったので、束ねているシュロ盆をバラバラにして、孵化水槽内に浮かべて孵化仔魚が川へ流下しやすいようにしている様子です。死卵にミズカビが激しく繁茂しています。顕微鏡で見たところミズカビの菌糸の間から、生き残っている発眼卵が見えました。「こんな状況で良く生きているものだ。」と感心してしまいますが、その視線はちょっと恨めしそうにも見えます。
    • 写真1

粘着性除去の最適条件の検討

  胆振管内鵡川町で行われているシシャモの人工孵化事業では、親魚を砂利を敷き付けめた水槽内で自然産卵させる方法とビン式孵化器による孵化管理方法を併用しています。ワカサギに応用しようと考えたのはビン式孵化器による孵化管理方法です。この方法ですと、ワカサギ卵が水流により絶えず攪拌されるため、斃死の原因となる懸濁物質が付着しづらくなるはずです。そのためには、まずワカサギ受精卵の粘着性を除去しなければなりません。そこで受精卵に白陶土(カオリン)を使って、粘着性の除去を行いました。その際、ワカサギの卵に悪影響がなく、かつ粘着性を除去できる最適処理条件を見つけるための実験を行ったところ、「濃度500(ミリグラム/リットル)で10分間」処理を行う方法が最も効果的であることが分かりました。。

ビン式孵化器と改良型アルテミア孵化器を導入してみました

  写真2は4種類の孵化器をワカサギ孵化場に設置した様子を写したものです。ワカサギ受精卵を先に紹介したようにカオリンを用いて濃度500(ミリグラム/リットル)で10分間攪拌してそれぞれの孵化器に収容しました。上の写真は市販されているビン式孵化器で容量が6リットルと20リットルのものです。どちらもシシャモで使用されているものと同様です。収容した受精卵数はそれぞれ、200万粒および600万粒でした。下の写真は市販されているアルテミア孵化器を改良して、水がビン式孵化器と同じように底から上層へ流れるようにしたものです。左の写真は容量が50リットルで、右の写真は容量が100リットルです。収容した卵数はそれぞれ1,400万粒および2,800万粒でした。
    • 写真2

どの孵化器が最も良かったか?

  図1に4種類の孵化器とシュロ盆で卵を管理した際の孵化までの生残率を示しました。算出方法は以下のとおりです。まずビン式孵化器に受精卵を収容する際に受精卵の重量を量り、同時に受精率を調べて掛け合わせると、収容時の生卵率が分かります。孵化直前には発眼卵を取り出しふたたび重量を量り、発眼率を掛け合わせると、孵化直前時の生卵率が分かります。この時一部の卵を取り出し、10度の止水条件下で実験的に孵化率を調べ、掛け合わせると生卵率が推定できます。図中の線グラフの一番右に書かれている数値はシュロ盆を1とした場合における比率です。これらを比較すると、シュロ盆では卵を収容した時点から約半分しか孵化していませんが、6リットルと20リットルのビン式孵化器および50リットルの改良型アルテミア孵化器では1.2倍の成績でした。そして、さらに100リットルの改良型のアルテミア孵化器では1.6倍の成績になりました。

  また、図の中に示されている写真は100リットルの改良型のアルテミア孵化器内から取り出した発眼卵の顕微鏡写真です。先に示したシュロ盆で管理した卵の写真(写真1)と比べると、ミズカビが全く見られず、生卵が多いことが一目で分かります。
    • 図1

汎用化のために

  石狩支所が管理運営するワカサギ孵化場では毎年約3億粒のワカサギ卵を収容して孵化事業を行っています。今回最も成績の良かった100リットルの改良型アルテミア孵化器には1器あたり、2,800万粒を収容しました。したがって単純に計算して10~11器ほどあれば今までシュロ盆に付けていた卵を全て収容することが可能になります。毎年買い足していたシュロ盆も必要なくなりますし、何十人も集まってワカサギ卵をシュロ盆に付けて束ねる作業も必要なくなります(「試験研究は今No.470」参照)。

  でも本当に10器も必要なのでしょうか?そもそも1器にどのくらいの卵数が収容できのものなのでしょうか?また、必要十分な水量はどのくらいなのでしょうか?今後はこれらの情報を提供でるような試験設定を行って、汎用的に使用できようしたいと考えています。
(水産孵化場養殖技術部養殖応用科長 佐々木義隆)