水産研究本部

試験研究は今 No.528「噴火湾におけるトヤマエビの漁獲量予測」(2004年8月6日)

噴火湾におけるトヤマエビの漁獲量予測

はじめに

  北海道も過ごしやすい季節となり、皆さんも行楽などで外に出る機会も多くなっていることと思います。 ここ、稚内も相変わらず風が強いものの、気温は20度を超えるなど、初夏から夏への様相を呈してきており、スポーツ大会や自然観察会など、様々なイベントが開催されております。

  このような中、稚内水産試験場を訪れる人も多くなり、先月6月には、市内PTAなど3団体からの視察見学がありました。
    •  図1
      図1 噴火湾トヤマエビ漁獲量と極小水温の推移

極小水温について

  北大大学院水産科学研究科において、1985年から噴火湾の底層水温がモニタリングされています。この底層水温の月別平均推移をみると、5月頃に最も低く(極小水温)、11月頃に最も高い値(極大水温)を示しています(図2)。

  噴火湾の海洋環境を決定している要因として、津軽暖流水と親潮系水の二つがあります。

  津軽暖流水は9月頃から中層以深より湾内に流入し、11月頃には湾内をほとんど満たします。その後、冬季の北西季節風によって冷却され、冬季噴火湾水という均質な水塊へとその姿を変えます。

  親潮系水は、春先に表層から湾内に流入し、やがて表層から底層付近まで占めるようになり、底層には冬季噴火湾水がわずかに残ります。この状態が次の津軽暖流水が流入するまで続きます。

  噴火湾の5月頃の80メートル層の水塊は親潮系水由来であることが分かっています。その下層には冬季噴火湾水が存在します。ここで、2月の80メートル層水温(冬季噴火湾水)、5月頃の80メートル層極小水温及び室蘭沿岸の極小水温(親潮系水)(北大室蘭臨海実験所観測)の比較(図3)から、80メートル層極小水温が親潮系水の水温より高く、2月の80メートル層水温(冬季噴火湾水)よりも低いことが示されました。このことから、極小水温は親潮系水が冬季噴火湾水によって加温されることによって決定されることが分かりました。
    • 図2
      図2 噴火湾底層水温の月別平均推移(1985~2003年)

      (資料:北大大学院水産科学研究科)

    • 図3
      図3 2月80メートルの層水温、80メートル層極小水温及び室蘭極小水温の比較

極小水温の予測

噴火湾の海洋構造から、極小水温の形成には、冬季噴火湾水(津軽暖流水)、親潮系水及び冬季の北西季節風が大きく関わって関わっていることが推測されます。従って、これらの3要因について、現在得られている資料(データ)を用いて重回帰分析することにより、極小水温の予想を試みました。

(データ)
1. 親潮系水の水温(室蘭沿岸の水温で代表)
2. 冬季噴火湾水の水温(2月の80メートル層の水温で代表)
3. 冬季の北西季節風(室蘭の10~2月平均気温で代表)
(重回帰式)
80メートル層極小水温=0.84+0.28×(2月80メートル層水温)+0.44×(室蘭10~2月平均気温)
R2=0.6841


  この中で1. 親潮系水の水温については相関が認められなかったため除外しました。重決定係数R2が0.68なので、この式は80メートル層極小水温を68パーセント説明できていることになります。残りの32パーセントはこの式に含まれていない情報や誤差ということになります。

  この式によって得られた極小水温の推定値と実測値を比較しました(図4)。その結果、1990・91年において実測値と異なる傾向を示している他は、かなり近い値になっています。このことから、上記の式によってその年の80メートル層極小水温を予測できる可能性があると考えています。

  この重回帰式により2004年の極小水温を予想すると3.5度となり、2003年(2.8度)を大きく上回ることが示されました(計算時点では、2月の80メートル層水温が不明でしたが、1986年から2003年までの同水温が3.1~6.2度であることから、これを3.0度として計算しました)。
    • 図4
      図4 80メートル層極小水温 の実測値と予測値の比較 

トヤマエビの漁獲量予測

  前項の結果より、2004年の極小水温は2003年を上回ることが推測されました。そのため、2004年のトヤマエビ漁獲量は過去の極小水温の変動との類似性から、前年(2003年、154トン)よりも期待できるのではないかと予想されます。予想は2月までのデータを用いるため、春季漁期(3~4月)には無理ですが、秋季漁期(9~11月)には間に合うのではと考えています。

最後に

  噴火湾における水温或いは冬季の気象と漁獲量の関係は、漁業者の経験則からスタートしています。ただ、水温といっても得られるデータは限られ、時期・水深の選定も確定していません。また、漁獲量や資源量との関係についてもそのメカニズムが分かっていない状態です。従って、今後はより精度の高い予測に向け、これらの課題を解決していく必要があると考えています。
(函館水産試験場 資源管理部 桒田稔)