水産研究本部

試験研究は今 No.532「噴火湾の養殖ホタテガイ採苗安定化対策試験から」(2004年10月22日)

噴火湾の養殖ホタテガイ採苗安定化対策試験から(PART 3)

  今年の噴火湾のホタテガイ採苗は,地場採苗するには十分だった昨年を上回る稚貝の付着がみられ,久々に安堵できる年となりました。採苗が安定化し,できるだけホタテガイ養殖漁業者の経済的,労力的な負担が軽減するよう今後も試験調査データを積み重ねる必要があります。

  2003年度から3年計画で函館水産試験場を中心として,採苗の早期予測および採苗の安定化を目的とした試験が行われています。栽培漁業総合センターでは,この一課題である「良質母貝の養殖技術開発試験」に合わせ,室内で産卵誘発手法を用いて採卵し,卵およびその後の発生状態を観察することにより,経年的な卵質の違いを明らかにすることなどを内容とする試験を行っています。

  これまでのところ,卵質の指標とみられるD型幼生への移行率などに経年的な差異が認められ,ホタテガイの卵質が幼生の発生に質的量的にどのように影響しているかに関心が高まっています。今回はD型幼生以降の適切な飼育条件を明らかにするために,付着期まで幼生飼育試験を行いましたので,結果の概要をご紹介します。

飼育試験の方法

  幼生飼育試験は,与える餌(単細胞性藻類)の種類別(キートセラス グラシリス,パブロバ ルッセリ,両者の混合の3通り)に行いました(表1)。

表1 幼生飼育試験の採卵月日と飼育期間
試験区 採卵年月日 飼育期間
キートセラス給餌区 2003年5月22日 30日間(5月25日~6月24日)
パブロバ給餌区 2003年5月22日 30日間(5月25日~6月24日)
混合給餌区 2003年5月22日 30日間(5月25日~6月24日)
  試験に用いた幼生を得るまでの手順は,次のとおりです。即ち,産卵誘発で得た受精卵を4回洗卵した後,母貝別に10リットルを採取し,別の12リットル角形スチロール水槽(364×206×271ミリメートル)に収容し,15℃恒温室に静置しました。翌日,浮上した幼生を別の12リットル角形スチロール水槽に分離し,新鮮な精密濾過海水を添加して10リットルとしました。さらに,その翌日母貝別に収容していたD型幼生を回収し,それらの幼生を混合したものを試験に用いました。幼生の飼育水槽には,1試験区あたり20リットル角形スチロール水槽(412×248×301ミリメートル,飼育水量15リットル)を2個用いました。幼生は,当初の飼育密度が飼育水1ccあたり2個体になるように収容しました。飼育水には通気を行い,清新さを保つために2日毎に全量交換しました。

  餌料は試験区ごとにキートセラス グラシリス,パブロバ ルッセリまたは両者を1対1の割合で混合し,飼育水交換後に所定量(0~3日目5,000cells/cc,4~7日目10,000cells/cc,8~13日目15,000cells/cc, 14日目以降20,000cells/cc)を給餌しました。また,飼育水温は
15度恒温を維持しました(図1)。

  生残,成長の状態を調べるために,各水槽から3日毎にサンプリングを行いました。

    • 図1 飼育室の室温と15リットルスチロール水槽水温

飼育試験の結果

  幼生の生残率は,パブロバ給餌区と混合給餌区では漸減傾向がみられたものの, 30日目に前者で45.7~57.3パーセント,後者で50.3パーセント,55.0パーセントでした。一方,キートセラス給餌区ではNo.1は,他の給餌区と同様漸減傾向を示したものの,30日目では20.7パーセントまで低下しました。他方,No.2では15日目に11.7パーセント,18日に0.7パーセントに急減しました(図2)。なお,今回の飼育試験では,用いた幼生の状態が良くなかった(飼育当初の奇形率19.9パーセント)ことから,これが各給餌区の生残率に影響した可能性が考えられました。

  成長は,混合給餌区で最も早く,水槽No.1,No.2とも30日目に付着サイズである平均殻長260ミクロン以上に達しました。パブロバ給餌区の成長量は混合給餌区に次いで早く,30日目に水槽No.1,No.2でそれぞれ平均殻長230ミクロン,234ミクロンを示しました。他方,キートセラス給餌区では成長は15日目以降停滞し,水槽No.1では30日目に平均殻長186ミクロン,水槽No.2では12日目に平均殻長175ミクロンでした。(図3)。
    • 図2
    • 図3
  以上のように,幼生の飼育条件の一つである餌の種類については,パブロバとキートセラスの混合給餌が成長面から最も優れていました。パブロバの単独給餌では,混合給餌の場合より劣りますが,成長は認められました。しかし,キートセラスの単独給餌では,平均殻長175~186ミクロンで成長の停滞がみられ,生残率の急減が起こりました。
(栽培漁業総合センター貝類部 伊藤義三・多田匡秀)


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