水産研究本部

試験研究は今 No.709「海の中を超音波で見る-周波数の違いを利用した魚種判別-」(2012年3月30日)

はじめに

  深い海の中にいる魚を直接目で見ることはできませんが、超音波を使うと「見る」ことができます。と言っても超音波は人間には聞こえませんし、まして見ることはできません。そこで、これを「見える」ようにした装置が魚群探知機です。魚群探知機は超音波を海中に発信し、魚やプランクトン、海底などにぶつかって跳ね返ってくる超音波を受信する装置です。発信した超音波が返ってくるまでの時間の長さが魚の群れまでの距離を、返ってくる超音波の強さが魚の群れの濃さ=魚の量をあらわします。超音波は海の中で1秒間にだいたい1500メートル進むので(水温と塩分によって変わりますが)、超音波を発信して1秒後に反射が帰ってきたら、往復1500メートル、片道750メートルの距離に魚がいるということになります。また、魚の種類や使う超音波の周波数(波の周期の長さ)によっても、跳ね返ってくる強さが変わります。魚の中で一番強く超音波を跳ね返す部分は、うきぶくろ(鰾)のなかにはいっている空気です。例えば同じ大きさで同じ数の魚がいても、うきぶくろのあるスケトウダラでは強く、うきぶくろのないホッケではこれとくらべて弱い反射しかかえってきません。また、うきぶくろのある魚でも、小さい魚は周期の長い波である低周波で見ると「共振」という現象を起こして非常に強い反射を返す場合があります。一方、プランクトンのように非常に小さい生物では周期の短い波である高周波に強く映るという特徴があります。水産試験場の試験調査船には低周波と高周波2種類の計量魚群探知機が搭載されていて、それぞれの周波数の反射の強さの違いを利用して、調査中に観察される魚の群れの種類を判別しています。

周波数の違いを利用した魚種の区別

  図1は昨年の2月に北海道岩内町の沖で稚内水試の試験調査船北洋丸に搭載している計量魚群探知機を使って見た2種類の魚の群れです(黒い楕円でかこった(1)と(2))。青い雲のようなかたまりが魚の群れを現しています。右下に見えている茶色い太い線は海底です。上の四角は低周波で見た場合、中の四角は高周波で見た場合、下の四角は低周波と高周波の差をあらわします。(1)の魚群は低周波と高周波で映り方が違います(低周波の方が強い=映り方が濃い)が、(2)の群れは(1)と比較すると、両方の周波数でほぼ同じように見えているのがわかるでしょうか。図1の下の図は周波数による映り方の違いを色で表したもので、(1)の魚群は青から水色=「低周波のほうが強い」、(2)の魚群は黄色から黄緑色=「低周波と高周波の強さがほぼ同じ」になっています。(2)の魚群はこの海域で重要な漁獲対象になっているスケトウダラの成魚だと考えられます。スケトウダラはうきぶくろを持つ比較的大型(体長40センチメートル前後)の魚なので、低周波と高周波にほぼ同じように映ります。一方(1)の魚群は高周波より低周波の方に強く映っており、スケトウダラとは違う魚であることがわかります。このような映り方は、うきぶくろを持った小さい魚や気泡をもったプランクトンの特徴です。このように2種類の周波数を使うことで、直接トロール網などを使って魚を採集しなくても、ある程度魚種を区別することが可能です。水産試験場が調査を行っている海域では、海底が急だったり、刺し網などの漁具がたくさん設置されていたりする場合が多く、このような場所ではトロール網を使った魚種の確認ができません。その場合、今紹介したような技術を使って魚種の判別をしています。
    • 図1
      図1.超音波で見た魚の群れ(1)と(2)

      上:低周波、中:高周波、下:低周波と高周波の差

イルカに学ぶ

  超音波を使って魚を「見て」いるのは人間だけではありません。実はイルカも同じように超音波を使っていることが知られています。また、水産試験場では二つの周波数しか使っていませんが、イルカはもっとたくさんの周波数を使っていて、より多くの魚種をより精密に判別することができるそうです。このようなイルカの技を応用した魚群探知機の開発が、日本でも進められており、近い将来イルカ型魚探が実用化されるものと期待されています。

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