水産研究本部

試験研究は今 No.536「放流マツカワの移動 -大きくなるとどこへ行く~-」(2004年12月3日)

試験研究は今 No.536「放流マツカワの移動 -大きくなるとどこへ行く?-」(2004年12月3日)

放流マツカワの移動 -大きくなるとどこへ行く?-

はじめに

  マツカワの人工種苗放流が始まってから10年以上がたち,近年の放流数増大につれて漁獲量も増えてきました。これに伴って漁獲される範囲も広がってきています。放流魚がどこまで移動して,どこで獲られるのかを明らかにすることは放流の効果を判定する上で重要です。
ここでは,標識放流したマツカワの再捕結果から放流魚がどこまで移動しているのか,わかってきた範囲でお話しします。

噴火湾と日高で放流したマツカワの再捕場所 ~0歳放流の場合~

  これまでに噴火湾と日高で標識を付けて放流されたマツカワ(0歳で放流)がどこで再捕されたかを図1に示しました。
海域の区分は便宜的に,噴火湾内,太平洋西部(日高~胆振太平洋),太平洋東部(十勝以東),渡島~津軽海峡(渡島太平洋から一部日本海を含む)そして道外太平洋(青森県~茨城県)の5海域に分けました。これを見ると噴火湾内で放流した群は90パーセント近くが湾内で漁獲されています。また,日高のような地形的に開けた海域で放流した場合でも同様に90パーセント近くが放流した海域内で漁獲されていることがわかりました。

  しかし,ひとつ問題があります。図2に年齢別に見た再捕報告数を示しました。標識放流魚は放流直後から再捕報告がありますが,漁具に掛かりにくい0歳魚の報告は少なく1歳魚になると報告数がぐんと多くなります。漁獲物の主体を占める2歳魚では1歳魚とほぼ同様の報告数があり,この両者で再捕報告全体の90パーセント以上を占めます。ところが,3歳以上になると極端に報告数が少なくなります。これは,漁獲される魚の数が少なくなることに加えて,標識自体が2~3年で魚体から脱落してしまうことも原因であると考えられます。

  したがって,図1で示した放流魚の再捕場所は,主に2歳魚までの傾向を示したものといえます。
    • 図1
    • 図2

3歳魚以降はどこへ行く・・・?

  それでは,3歳以上の魚はどこに行くのでしょう?やはり放流場所にとどまって周辺で漁獲されるのでしょうか?
このことを調べるために2~4歳まで陸上で飼育した魚に標識を付けて放流してみました。こうすることで,標識が装着後2年間残存しているとすれば2歳で放流なら4歳まで,3歳で放流なら5歳まで追跡することが可能になるはずです。

  これらの実験は平成12年から行っていますが,1回の放流数が少ないため個々の結果では傾向が見えません。そこで,放流年は異なっていますが,放流時期と場所がほとんど同じである噴火湾内の豊浦地区で放流した3カ年の再捕状況をまとめて図3に示しました。

  このような高齢での放流魚は魚体が大きいため放流直後から再捕されますが,移動の様子を知ることが目的ですから,ここでは放流直後に再捕された事例は除外し,放流半年以後に再捕された場合のみを示しました。これを見ると,放流場所である噴火湾内からの報告が再捕報告全体の15パーセント程度にとどまったのに対し,太平洋西部で40パーセント近くあり,噴火湾から太平洋岸に分散している様子が見て取れます。特に,道外太平洋で30パーセントが再捕されており,図1で示した再捕状況とは大きく様相を異にしました。やはり加齢とともに相当広範囲に移動しているのだと推測されます。

  つぎに,何歳の魚がどこの海域で獲れたのかを図4に示します。これを見ると,放流場所である噴火湾内では2歳魚しか再捕されていないことがわかります。3歳魚は太平洋西部や道外太平洋で,4歳以上は道外を含む太平洋岸などの広い範囲で再捕されています。

  どうやら成長して魚体が大きくなるにつれてより遠くまで移動しているように見えますが,どうでしょうか。
    • 図3
    • 図4

おわりに

  以上のようにマツカワ放流魚の移動についてまとめてみました。

  2歳までは放流場所付近にいることはわかってきましが,3歳以降については,まだ事例が少なく移動の様子を完全に明らかにすることはできていません。噴火湾では継続してこのような高齢魚の放流実験を進めていますし,日高海域でも昨年から同様の実験を開始しています。

  今後,これらの放流魚の再捕報告が寄せられ,事例が多くなることによって詳細がわかってくることと思われます。

  マツカワに限らず,標識魚が再捕された場合には,再捕日や全長などの再捕データを最寄りの漁協などの関係機関にご連絡ください。

  ひとつひとつの報告の積み重ねが,豊かな水産資源を作る礎になるはずですから。
(函館水産試験場室蘭支場 高谷義幸)

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