水産研究本部

試験研究は今 No.540「未低利用藻類の有効活用を目指して」(2005年2月4日)

未低利用藻類の有効活用を目指して

はじめに

  北海道(特に道東地方)のコンブ漁場では雑海藻としてアイヌワカメやスジメが年間約3,000トン駆除されています。また、促成コンブの養殖場では間引きされたコンブが全道で年間約1,000トン、収穫の際に除去されるコンブの仮根(コンブ付着器)が年間約5,000トン廃棄されています。この他にも、調味料メーカーから出されるエキスを抽出した後のコンブ(エキス抽出残滓)など多くの水産バイオマス資源が未低利用のまま有効活用されていない現状にあります。

  これら未低利用藻類の中でも特に褐藻類には、活性酸素を除去したり、抗がん作用などがあるカロテノイド色素の一種のフコキサンチン(図1)や、血栓を予防したり、コレステロール低下作用などがあるフコステロール(図2)といった有用成分が含まれています。このため、加工利用部ではこれら有用成分を効率的に海藻の中に濃縮させるほか、抽出して利用する技術を(独)中央水産研究所及び(独)畜産草地研究所と共同で研究しています。
    • 図1、2

未低利用藻類の成分調査

    • 図3
  原料特性を把握するため、各未低利用藻類の一般的な成分の含有量を測定しました。なお、数値は水分量による誤差をなくすため、水分が全く無いと仮定した時の数値である「無水物換算値」で表しています(図3)。
  • 灰分
マグネシウムやカリウムなどミネラルは間引きコンブで最も多く、逆にエキス抽出残滓ではコンブエキスとして抽出されているため、量は少なくなっています。
  • 粗蛋白質
各試料間で特に差は無く、約10~13パーセントでした。
  • 粗アルギン酸
粘質多糖類と呼ばれるものの一種で食品の増粘安定剤やゲル化剤などに利用されています。これは間引きコンブでは少ないのですが、エキス抽出残滓では灰分やマンニトールなどの水溶性成分が除かれているため、相対的に比率が高くなっています。
  • 粗繊維
主にセルロースです。コンブ付着器で最も多くなっています。
  • マンニトール
やや甘みのある、干したコンブの表面に白い粉として出てくる成分の一つです。間引きコンブでは成長途中のコンブのため多くはありませんが、アイヌワカメとスジメでは多くなっています。なお、粗アルギン酸・粗繊維・マンニトールなどが海藻の炭水化物に当たります。
  • 脂質
エキス抽出残滓ではコンブエキスとして抽出されないので、相対的に比率が高くなっています。ちなみに、今回ターゲットにしているフコキサンチンやフコステロールはこの脂質の中に含まれています。

濃縮試験の結果

  フコキサンチンはフコステロールより熱・強い光・強アルカリなどで分解されやすい、不安定な物質です。そのため有用成分の濃縮方法の検討では、フコキサンチン量の変化を指標にしながら、間引きコンブを使って行いました。
    • 図4、5
    • 写真1
  濃縮方法は、まず薄い塩酸でマンニトールなどの水に溶ける成分を除き、次いで各濃度のアルカリ(炭酸ナトリウム溶液)で水に溶けないアルギン酸などを除きました。この時の歩留まりを基に、除去できた成分の量を多糖類等の除去率として算出しました。この除去率の数字が高いほど、濃縮が進んでいる目安になります。その結果、アルカリ処理濃度0.5パーセント以上ではフコキサンチンが分解することが分かりました(図4)。また、アルカリ処理濃度0~0.25パーセントの間では0.25パーセントが最も多糖類等の除去率が高くなりました。このため、アルカリ濃度は0.25パーセントが最も適していることが分かりました。この条件で濃縮処理した時の間引きコンブのフコキサンチン含有量は原料の6.1倍、フコステロールは4.9倍にもなっていることが分かりました(図5)。

  今後は、間引きコンブなどの濃縮物や抽出したフコキサンチンを餌として与えた鶏から、日持ちの良い鶏肉や低コレステロール卵などの開発を行うとともに、フコキサンチンをマウスに与えて新たな機能性の探索などを行っていきます。
(中央水産試験場 加工利用部 佐藤暁之)

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