水産研究本部

試験研究は今 No.545「布海苔礁の管理手法について」(2005年4月28日)

布海苔(ふのり)礁の管理手法について

はじめに

  渡島管内上磯町茂辺地周辺には未利用の平磯があり、平成14年度及び15年度にフクロフノリの着生や成長を良好にする機能を持つ「フノリ礁」を488礁設置しまた。平成15年度には、4tの生産を上げ、大きな期待が寄せられています。しかし、一部の礁では工事による浮泥の影響や競合する海藻類の侵入などによる着生量の減少が見受けられ、フノリ礁の管理が今後の課題となっています。
そこで、平成14年のフノリ礁設置以降行ってきた、雑海藻駆除、胞子液散布、着生量調査、収穫量調査などの取り組みを紹介します。

雑海藻駆除・胞子液散布
  胞子液散布作業は、フノリ礁が十分干出しているときに作業を行う必要があるため、作業日程は6月中下旬の大潮の日になります。同時に、フクロフノリの成熟した胞子を十分確保するために、事前に成熟状態を十分把握する必要があります。また、胞子液散布作業前には、「座」と呼ばれるフクロフノリの越年生匍匐部の形成が十分でないときや競合する海藻の着生が多いときは、雑海藻駆除作業が重要です。当地区では漁業者により金ブラッシ、削り鏝(スクレーパー)、バッテリー式グラインダーを用いて除去を行いました。過去の報告では、広範囲な漁場を率的に雑海藻駆除を行うために灯油に浸した鋸くずを岩礁にまいて焼却をしていた例がありますが、安全や環境のことを考慮すれば市販されている火炎式の焼却機の利用も有効と考えられます。

  胞子液散布に当たっては、成熟したフクロフノリを前日採取し、半日陰干ししたものを冷蔵庫に保管し、当日海水を満たし水槽に浸してフクロフノリの胞子液を作成し、ショウロを用いて1礁ずつ散布しました。平成15年、16年にはフクロフノリノ生育状況の良くない礁と雑海藻駆除を行った礁について継続して観察を行っています。
雑海藻対策
フクロフノリ以外でフノリ礁に出現する主な海藻は、緑藻類:エゾヒトエグサ、ボウアオノリ、褐藻類:マツモ、カヤモノリ、ワタモ、紅藻類:スサビノリ、イソダンツウ、マツノリ、ツルツル、ツノマタ、オキツノリ、コスジフシツナギ、藍藻類:アイミドリです。平成17年3月には新たにフクロフノリに着生して生育するフノリノウシゲが多数のフノリ礁に出現していることが明らかになりました。フノリ礁に新たに侵入する海藻は今後もあると考えられますが、これらの海藻類の中でフノリの生産に影響を及ぼす種は、フクロフノリと生育帯をほぼ同じくするイソダンツウ、津軽海峡沿岸での生活様式が十分明らかでないアイミドリ、フクロフノリに着生し除去が困難なフノリノウシゲが挙げられます。

イソダンツウ Caulacanthus ustulatus (Turner) Kuting:
本種は、紅藻類スギノリ目イソダンツウ属に仲間で、潮間帯上部の岩礁上に1ミリメートル以下の細い枝を密生させ、苔のようにマット状に生育します。このため、フクロフノリの座の生育場と競合します。成熟期は、7月・8月ですから、6月に雑草駆除を行うことは有効と考えられます。

アイミドリBrachytrichia quoyi (C.Ag.) Born.et Flah.:
この種は、暖流系の藍藻で、5~10ミリメートルの球形ないしは頭巾状に成長します。北海道西岸には分布しますが、今回のように大きなコロニーを作ることは知られていませんでした。フクロフノリとの生育面の競合について注意深く観察する必要があります。

フノリノウシゲ Bangia gloiopeltidicola Tanaka:
本種は、フクロフノリに特異的に着生することが知られている紅藻類です。成熟期は3月頃でフノリの漁獲時期に最も繁茂します。食しても害はありませんが、取り除くことは出来ず、見た目が悪いために食用としての販売はできず、やっかいな海藻です。
漁獲手法
  フクロフノリの漁期は、12月から4月までの干潮にあわせフノリ部会の10名から20名の漁業者が出漁し、手摘みで採取しています。効率的な摘み取りには、バッテリー式の芝刈り機を検討していますが、若い目まで刈り取り、以後の漁獲に影響を与えるため、手摘みで行います。漁獲したフクロフノリは荷捌き所で洗浄し、生出荷の場合はビニール袋に1キログラム詰め、乾燥の場合は洗浄後そのまま加工場へ運びます。漁獲から出荷まですべて共同で行っています。

  今後の取り組み
  このように、胞子液散布、雑海藻駆除、漁獲手法は、漁業者を交え漁業者自らが行える簡便な作業手法の確立が不可欠です。競合する雑海藻類のアイミドリやフノリのウシゲなどについては、まだどの様な生活をするのか十分に解明されていません。これらについては生活の実態を十分に把握し、どのように駆除するかを検討する必要があります。フノリ礁の管理については、今後も周年調査を積み重ね資料蓄積の必要があります。(渡島地区水産指導所 板倉祥一・上磯町 竹内久人・函館水産試験場 松山惠二)

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