水産研究本部

試験研究は今 No.602「「大きいものには負けないぞ!」稚ナマコのくっつく力」(2007年10月19日)

「大きいものには負けないぞ!」稚ナマコのくっつく力

  マナマコは、近年の急激な需要の伸びに、数年前までは想像もしなかったような価格の急騰が続いています。今やナマコの人気はすごいもので、全道にわたって興味の的となっています。このことは資源への不安も持ち合わせていて、資源管理の取り組みが行われ始めました。一方で、栽培漁業技術開発への要望も大きく、その技術開発が進められています。その中で放流試験も行われていますが、放流後に大きな個体数の減少があり、その原因究明が課題となっています。このような種苗は、放流した後に海底にうまく定位できず、海の中の流れによってどこかへ飛ばされてしまうことが一つの要因と考えられます。放流するナマコの付着する能力ははたしてどんなものだろうか。室内で調べてみることにしました。
    • 写真1
      写真1 ナマコの管足
    • 写真2
      写真2 管足で水槽に付着
  ナマコは、管足という器官の先端にある吸盤(写真1)を使ってどんなところにもくっつきます(写真2)。これは同じ棘皮動物の仲間のウニやヒトデにもみられます。この管足を巧みに動かしてあちこち移動もします。しっかりくっついたナマコは、かなり頑丈なもので、そう易々とは剥がれてきてはくれません。力を入れてむりやり剥がすと、バリバリっという音を立てて管足がちぎれてしまいます。かなり強力な付着力です。
    • 写真3
      写真3 小型振動流水槽

      (中央水産試験場水産工学室所有)

  くっついていることに関しては、これだけの能力がありそうですから、問題となるのは、流れの中でいかに早くくっつくかです。うまく放流場所に付着して残ってもらわなければいけません。そこで放流場所と同じ反復する流れ(振動流という)を人工的に起こすことのできる装置(小型振動流水槽:写真3)を使用して、付着するまでの時間を調べてみました。この水槽の中にナマコを放します。水槽の底に落ちたところから水槽面に管足でくっつくまでの時間(最大5分)を測定しました。使った個体は、0.01グラムから10数グラムまでのいろいろな大きさのものです(実際の放流サイズは、0.02~0.5グラム程)。図1は、水温9度で滑らかな水槽面で行った結果です。流速7.5センチメートル/秒の速さまでくっつくことができました。ここで注目したいのは、その付着までの時間です。流速5センチメートル/秒に着目すると、図中の点の位置が右上がりになっています。この条件では、大きい方が付着するのに時間がかかっていることを示します。流れが7.5センチメートル/秒になると全体的に付着に時間がかかり、大きい個体では付着しないものも出てきました。今度は水温22度での結果を図2に示します。同じように流速5センチメートル/秒と7.5センチメートル/秒で顕著に右上がりの傾向が見られます。やはり小さい個体が早く付着する傾向にありました。9度同様、観察していると小型の個体がさっとくっつくのが認められました。さらに、22度の試験で注目されるのは、付着できた最大流速が19センチメートル/秒まで上がっていることです。水温が高いと、ナマコでも動きが速くなるのか、素速く付着することができるようです。
    • 図1,図2
  大きいものほど流れに対して強く、海底に残りやすいであろうと予測して実験を始めましたが、これに反し、小型の個体の方が早くくっつく結果でした。また、付着できる流速に水温が関係してくる可能性が示唆されました。これらは、放流サイズや放流時期等の検討に非常に良い参考となります。あくまで単純化した実験の結果ですが、今後の放流技術開発に役立つ情報が得られると考え、条件を変えて実験を続けています。

(稚内水産試験場 資源増殖部 中島幹二)

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