水産研究本部

試験研究は今 No.614「マナマコ種苗生産時における水産用マゾテンの残留性について」(2008年4月23日)

試験研究は今 No.614「マナマコ種苗生産時における水産用マゾテンの残留性について」(2008年4月23日)

はじめに

シオダマリミジンコ
(シオダマリミジンコ写真提供:栽培水試 酒井科長)
  マナマコは近年経済発展が著しい中国において消費の拡大が進んでいます。日本産のマナマコは、その品質の良さから高い付加価値をもって販売されており、国内での漁獲増大とともに乱獲が危惧されています。そこで日本各地でマナマコの種苗放流が行われ、資源量の底上げが図られています。北海道においてもマナマコの種苗生産が各地の民間施設で行われており、道立栽培水産試験場ではその量産技術が確立されつつあります。しかし、マナマコ種苗生産技術では、稚ナマコ時のシオダマリミジンコの食害による初期減耗が大きな課題となっています。この対策として、コイ目魚類等で使用が認められている水産用マゾテン(有効成分:トリクロルホン)の使用により、シオダマリミジンコの発生を抑えられることが分かっていますが(平成16年度北海道栽培漁業総合センター(以下、栽培センター、栽培水試)事業報告)、放流を目的としたナマコ種苗にトリクロルホンの使用は禁止されています。このため、水産用マゾテンを適法的に使用するためには効能拡大が必要ですが、承認申請のためには多くの費用と時間を要するため、製薬メーカー、国、関系道県が協力して必要な措置を検討する必要があります。また、薬剤を使用しないでシオダマリミジンコの発生を抑制する技術は、開発の途上にあります。
シオダマリミジンコ対策として、現時点でも獣医師の診断による出荷制限指示書に基づいて適法的に水産用マゾテンを使用することは可能です。そこで、獣医師が判断するために必要な水産用マゾテンのマナマコにおける残留性を調べましたので、ご紹介します。

方法と結果

  栽培センターで水産用マゾテンを用いた試験では、1ppm、24時間でシオダマリミジンコの駆除効果が認められています。その後の試験で100ppmでも稚ナマコは死亡しないことが確認されています。
本試験では、60リットル水槽を2水槽用意し、平均重量0.08グラムの稚ナマコを約650グラムずつ収容し、常用と想定している濃度(1ppm)の2倍濃度(2ppm)で24時間、止水状態で薬浴した後、約18度の調温海水を1日5換水となるようにかけ流し飼育をしました。飼育期間中はリビック(海草粉末)を給餌しました。流水飼育から3日、5日、7日、10日、14日および20日後に各水槽から稚ナマコを50グラム採取し、検査機関に送付するまで-80度で凍結保存しました。

  分析の結果、薬浴後10日以降は、依頼した検査機関におけるトリクロルホンの定量下限値である0.004ppmを下回り、実験した2水槽のどちらでも検出されなくなりました。

  このように、通常の2倍量の水産用マゾテンを用いても薬浴後10日以降は残留が認められないことから、本来の1ppm、24時間の薬浴を行った場合、10日間の休薬期間をおくことで、この薬品の稚ナマコへの残留はないという結論を得ました。
今回の試験は、シオダマリミジンコの駆除において獣医師の診断による出荷制限指示書を発行するための判断材料となるよう行ったもので、暫定的なものです。
今後は、水産用マゾテンの効能拡大や、薬剤を使用しないシオダマリミジンコ駆除技術の開発が必要と考えています。

  なお、この試験の詳細なデータを必要とされる方は、中央水産試験場資源増殖部までご連絡ください。

(北海道立中央水産試験場 資源増殖部 西原 豊)

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