水産研究本部

試験研究は今 No.603「 銅イオンによるサケ稚魚トリコジナ症に対する効果について」(2007年11月06日)

はじめに

  水産孵化場では医薬品に頼らない、さけます増殖事業の取り組みを進めています。平成15年に薬事法の一部が改正されたことに伴い安全性の高い代替法の開発に取り組んだ結果、水カビ病・卵膜軟化症に対して緑茶抽出物と銅イオン、そして原虫症に対して食酢食塩が有効であることが分かりました。
また、原虫症(主にイクチオボド)に対する銅イオンの効果も分かりました。

  道北支場では毎年トリコジナ症が発生しており、トリコジナ病(写真1)に対しても銅イオンが有効なのかを確認するために今回試験を行いました。 

方法

  供試魚は道北支場で飼育しているサケ稚魚です。浮上したサケ稚魚を3月に50リットルアクリル水槽中で飼育したものを使用しました。

  サケ稚魚を常時行動を観察しながら飼育を行い、水槽底を擦る行動や斃死が増えてくる状態が確認されたら1〜2尾を取り上げて鰭を検鏡して原虫の種類と数を確認しました。4月に入り寄生数が多くなってきた時点で試験を開始しました。鰭に寄生していた原虫はトリコジナ1種類でした。試験時のサケ稚魚サイズは平均体長4.42センチメートル、平均体重0.67グラムでした。

  試験区は銅イオン濃度が0.04ppmと0.49ppmの2区を設けました。

  0.04ppm濃度試験:4月20日に試験を行いました。500リットル水槽に河川水を注水して、銅イオン装置の電流、流量を調整して混合したときに0.04ppmになるように設定しました。(写真2)水槽に丸ザルを浮かせてサケ稚魚を入れ、開始前と4時間後、8時間後にそれぞれ30尾ずつ取り上げて両胸鰭、背鰭、尻鰭、尾鰭の5箇所を切除してスライドクラスに載せて顕微鏡倍率40倍で検鏡してトリコジナ数を計数しました。
    • 写真1,写真2
  0.49ppm濃度試験:4月24日に試験を行いました。銅イオン濃度0.49ppmの水を500リットルの水槽に注水しました。水槽に丸ザルを浮かせてサケ稚魚を入れ、開始前と2時間後、4時間後、6時間後、8時間後にそれぞれ5尾ずつ取り上げて両胸鰭、背鰭、尻鰭、尾鰭の5箇所を切除してスライドクラスに載せて40倍で検鏡してトリコジナ数を計数しました。また、同時に銅イオンの毒性を確かめるために同じ水槽に健康なサケ稚魚を数百尾丸ザルに入れて時間毎の斃死数を計数しました。
    • 図1
    • 図2,図3

結果とまとめ

  0.04ppm銅イオン濃度試験:開始時と経過時間毎の各部位に寄生していたトリコジナの1鰭当たりの平均寄生数は図1に示したとおりです。試験開始時のトリコジナ数は9.1個体でした。それが4時間後では6.6個体と少ない値を示しましたが、8時間後では8.9個体で開始前と大きな差は見られず、統計的な有意差は認められませんでした。また、検鏡時にトリコジナの動きを観察した結果、8時間後でも活発に動き回っており開始時と全く変わらない様子でした。
このことから、0.04ppm濃度の銅イオン処理ではトリコジナ症に対して全く効果がないものと判断されました。

  0,49PPm銅イオン濃度試験:開始時と経過時間毎の各部位に寄生していたトリコジナの1鰭当たりの平均寄生数は図2に示した通りです。試験開始前のトリコジナ寄生数は18,2個体でしたが、2時間後では6.2個体、4時間後には1.8個体に減少しました。また、6時間後と8時間後では0.1個体となり殆ど寄生していない状態でした。また、トリコジナの動きは、2時間後では動き回っている状態でしたが、4時間後ではその場で回転しているか止まっている状態であり、6時間後以降は回転もしていない状態となりました。一方、同時に行った健康なサケ稚魚を使った毒性試験の結果は図3の通りです。生残率をみると、3時間後までは100パーセントでしたが、4時間後で99.6パーセントと斃死魚がみられるようになり、5時間後で84パーセント、6時間後で71パーセントと低下して、8時間後には10パーセントまで下がりました。サケ稚魚は、3時間までは正常に泳いでいましたが、4時間後から横臥する魚が現れ斃死が見られるようになりました。5時間後から斃死魚が急激に増えるとともに、鰓蓋を開けて横臥する魚が多数見られました。
このことから、0.49ppmの銅イオン濃度でトリコジナ症に対して効果が認められましたが、魚に対する毒性も明らかになりました。

  今回の試験では銅イオン濃度を0.04ppmと0.49ppmで行った結果、トリコジナ症に対しては、イクチオボド症に有効であった0.02ppm、8時間処理より高濃度の0.49ppmでトリコジナ症に対して効果が認められることが明らかになりました。しかし、魚への影響も明らかになったことから、今後の課題としては、事業規模で処理を行うために、作業効率を考えて処理時間4時間以内で効果があり、かつ安全性の高い銅イオン濃度の検討を行う必要であると考えます。

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