水産研究本部

試験研究は今 No.649「放流したニシンは海の中にどれだけいるのか~」(2009年09月24日) 

試験研究は今 No.649「放流したニシンは海の中にどれだけいるのか?」(2009年09月24日) 

1. はじめに

  北海道の日本海沿岸域では,石狩湾系ニシン資源の増大と漁獲量の増加を目的として,種苗放流を行っています。放流は1996年(平成8年)にはじまり,石狩支庁で16万尾のニシン稚魚を放流しました。その後,放流数は増加して200万尾を超え,放流海域も留萌,宗谷,後志と広がっています(図1)。

  一方,放流したニシンがどれくらい生き残っているのか?また,その漁獲量は?さらに,放流されたニシンが子供を生んで資源が増えているのか?といった放流の効果についての調査も続けてきましたので,その結果について報告したいと思います。
    • 図1

2.  放流後の生き残り

  石狩湾系ニシンの場合,生まれて2年になる直前,つまり満1歳から漁獲されるようになるため,1歳で資源に加わったと考えます。これを資源への加入といいます。そこで,放流されたニシンが1歳まで生き残って加入する確率を求めました。

  方法としては,まず種苗生産の途中の数日間,ALC(アリザリンコンプレキソン)という薬剤を溶かした海水中で飼育し,耳石(頭の中にある一対の小さな骨,平衡器官の一部)に薬品を吸着させました。そして漁獲されたニシンから取り出した耳石に蛍光を当てて観察することで,放流したニシンと天然のニシンとを区別しました。一方,資源全体の1歳時点の資源尾数は別途資源計算によって求められていますので,それに放流したニシンが混じった割合をかけて,放流魚の加入尾数としました。最後に加入尾数を放流尾数で割って,年々の生き残り率としました(図2)。

  放流されたニシンが1歳まで生き残って加入する確率は1998年放流群の0.18パーセントが最も低く,1996年放流群の6.56パーセントが最高でした。1996年から2003年までの平均生残率は2.23パーセントで,年によってばらつきはあるものの,放流されたニシンのうち2〜3パーセント程度が生き残って資源に加入しているものと考えられます。なお,1998年放流群については、ALC標識の発光が薄いために発見率が0.18パーセントと低かった可能性があります。
    • 図2

3.  子孫の増加

  放流魚の漁獲量について触れる前に,放流されたニシンが天然魚とともに産卵し,さらに生まれた子が成長し親になって産卵するといったように,放流に由来する子孫がどれだけいるかについて述べたいと思います。そして,放流されたもの,放流に由来する子孫をあわせた漁獲量については後で述べます。

  放流され,加入したニシンのうち,どれだけが生き残って産卵したか?産卵された子供の中で,どれだけが生き残って加入したか?といった計算に必要な数値は,別途行った資源計算で得られたものを用いました。言い換えれば,加入した後は天然のニシンと同じように生活し子孫を残したとみなして計算したということです。石狩湾系ニシンは最短2年で成熟するので,1996年に放流されたニシンからは第6世代(来孫)まで生まれていることになります。そこで,第6世代までの世代別資源尾数を漁期年度(5月〜翌年4月)ごとに計算してみました(図3)。その結果,放流されたニシンの子孫は,年々増加しており2007年度には70万尾に達していました。

    • 図3

4.漁獲量

   放流に由来するニシンの漁獲量も増加してきており,2008年漁期で34トンと計算されました(図4)。近年,天然資源の増加によって石狩湾系ニシンの漁獲量は千トンを超える年も多くなっています。しかし,1996年までの漁獲量が数十トンレベル(1〜92トン)であったことからみれば,放流による漁獲増大の効果は,放流以前の全漁獲量に匹敵するものと言え,放流事業が資源の底支えとなっているものと考えられます。
    • 図4

(中央水試 山口幹人・瀧谷明朗)

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