水産研究本部

試験研究は今 No.601「石狩湾のシャコのおはなし」(2007年9月21日)  

北海道でも漁獲されるシャコ

  ここでは北海道のシャコのおはなしをします。日本でシャコが漁獲される主な海域は、伊勢・三河湾(漁獲量が日本一:昭和52年には2,000トン台、平成17年には過去最低の500トン台に減少)、東京湾(昭和61~平成元年には1,000トン台、平成17年には50トン台に激減)、瀬戸内海(香川県における漁獲量は平成11~15年には107~182トン)などがあげられます。北海道では主に石狩湾でシャコが漁獲されており(図1)、その漁獲量は昭和54年には300トンを超え、その後は50トン前後まで減少したものの、平成11年以降は90トン台前後で安定しています(図2)。
    • 図1
      図1 北海道の主要なシャコ漁場である石狩湾

      (主漁場は厚田~小樽沖合の水深20~30m)

    • 図2
      図2 石狩湾におけるシャコ漁獲量の推移

大きさが自慢の石狩湾のシャコ

  小樽、札幌の寿司屋では、石狩湾で漁獲されたシャコを、「地物シャコ」と銘打っています。「地物シャコ」は、いわゆる「普通のネタ」と比較して、「鮮度」と「大きさ」が違います。特に大きな北海道石狩湾のシャコは、関係者にはよく知られています(図3)。

  石狩湾のシャコが大きい理由は大きなシャコのみを選択的に漁獲する漁法によるものと考えられています。石狩湾以外の海域では底引き網でシャコを漁獲しています。底引き網とは船で網を引き回して、海底にいるシャコを網で掬い取る漁法です。一方、石狩湾では刺し網で漁獲しています。刺し網とは長い網を海底に数日間設置して、動き回るシャコを網で絡め取る漁法です。シャコは海底に巣穴を掘って生息しており、シケの後には餌を探しに巣穴から出て動き回ります。底引き網では巣穴の中のシャコも掘り返されて漁獲されたり、また小さなシャコも一緒に漁獲されることがあります。刺し網では大きなシャコであっても巣穴でじっとしていれば漁獲されませんし、小さなシャコは網目から抜けて漁獲されません(図4)。 
    • 図3
      図3 石狩湾の漁獲されたシャコ(回転寿司の普通ネタのサイズは左、 地物サイズは中央と右、 石狩湾では左のような小サイズのシャコは ほとんど漁獲されません)
    • 図4
      図4 石狩湾でシャコを漁獲している刺し網

これまでの調査でわかったこと

  平成2年~3年の潜水調査において、漁場となっている厚田~小樽に至る水深10~23メートルの計33地点の全ての調査点でシャコの巣穴が見つかっています。漁獲物調査から、石狩湾では夏~秋に脱皮をして大きくなること、成長に伴い厚田から小樽方向に南下移動することが想定されており、産卵期が6~7月(盛期は6月中旬~7月下旬)であることも明らかになっています。また平成元年~5年の調査・試験では、刺し網目合を現行よりも大きい85~91ミリメートル(2.8~3.0寸)にすることによって、シャコの漁獲量を減らさずに、小さなカレイなどの混獲を減らすことができ、網はずしにかかる労力(時間・人手)を軽減できることを実証しています。

シャコと漁業の関わり

  石狩湾のシャコ漁業は季節によるシャコの行動パターンと密接に関連して、春と秋に行われています(図5)。春漁は産卵期前の5~6月に行われます。この時期の雌には卵が詰まっており、コリコリとした食感が珍重されています。6~7月は産卵期であり、雌は巣穴の中で卵を産み、孵化まで約1ヶ月間卵を守り続けます。また夏~秋には脱皮もします。7~9月のシャコはあまり動き回らないうえに身も痩せることから、漁業は休漁となります。10~11月には脱皮後に再び活動を始めた身入りと味の良いシャコを漁獲対象とした秋漁が行われます。

  漁業はその海域に分布している資源を利用して営まれています。石狩湾のシャコ漁業は、近年漁獲量が安定していることから、現時点においてはシャコ資源に与えるダメージはそれほど大きくないものと考えられます。
    • 図5
      図5 石狩湾のシャコの生態と漁業のカレンダー

今後について

  石狩湾で漁獲されているシャコの年齢はまだわかっていません。もし年齢が推定できれば、資源状態をより的確に把握することができます。東京湾では老化とともに体内に蓄積する物質「リポフスチン」からシャコの年齢の推定が試みられています。石狩湾でもこの手法が適用できるかどうか、今後検討していきたいと思います。

(中央水産試験場 資源管理部 三原 行雄)

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