水産研究本部

試験研究は今 No.606「魚礁周辺での魚類の分布」(2008年2月22日)

1 はじめに

  以前魚礁に魚が集まることや集まろうとする性質の強さは魚種によって違うことをお話ししました。横の2枚の図はその時に示した魚礁に集まる強さ,魚礁性指数で魚種同士を比較したものです。

  復習になりますが,カレイ類は魚礁性の強さが序列をもって変化しています。カレイ類以外の魚種は,ドングリの背比べのような第1グループと第2グループ,カレイ類と同じように序列化する第3グループに分かれました。では,その魚礁周辺での分布はどう違うのでしょうと言うのが今回のお話です。
    • 図1
    • 図2

2 資料

  お話を進めるにあたっては根拠となった資料が必要です。資料は昭和58年から63年にかけて28回実施した島牧沖にある魚礁での漁獲調査結果を使いました。調査は魚礁の中心から2,000メートルの間を100メートル間隔で漁獲の変化を調べました。魚礁の規模は2,500空立方メートルで大型魚礁と呼ばれた事業で1メートルの円筒型魚礁ブロックを設置したものです。

  もう一つ,魚礁の規模によって魚礁周辺の魚類の分布が異なることを比較するために余市町沖にある5,000空立方メートルの魚礁を中心として370メートル間隔で1,850メートルに渡って実施した距離別漁獲試験の結果を使いました。漁獲試験は昭和42年に実施されたものです。

3 結果と考察

  図3と図4が魚礁からの距離と魚の分布を示したものです。もちろん,資源の量が変わると各距離での漁獲尾数が変わりますので資源の量が変わっても各距離での指数が変わらないように工夫がしてあります。図3は図1で第1グループに入るクロゾイの分布です。図4はマガレイの分布を示したものです。クロゾイは魚礁上あるいは直近から分布していますが,マガレイは魚礁から少し離れた部分を中心として分布していることがわかります。

  図3,図4に点線が入っていますがこれは平坦域での漁獲を示したものです。この点線より漁獲が多くなっている範囲を魚礁の効果範囲と考えました。クロゾイは0~420メートル,マガレイは370メートル~1,310メートルが効果範囲と算定できました。
    • 図3
      図3 クロゾイの魚礁からの分布
    • 図4
      図4 マガレイの魚礁からの分布
 このシリーズで数式を使うのは申し訳ないのですが,片目で見るだけ見てください。xを魚礁からの距離だとしますとその距離での漁獲qについて
    • 数式
  申し訳ないながら,数式を見ていただいたのには理由があります。分布を数式で表すことが出来ればその魚礁全体の蝟集量や漁獲量が推定できます。その推定には,積分と言うまた良からぬ数式が出てくるのですがまたの機会のお話にしたいと思っています。

  もう一つ,お話ししておきたいと思います。魚礁が大きくなると魚の分布はどうなるのでしょうか。それを図5に示しました。点線が2,500空立方メートル,実線が5,000空立方メートルでの魚礁周辺の魚類の分布を示しています。漁獲全体はともに100として示していますので,魚礁直近で点線の方に漁獲が多く見えますが距離での比率が大きいと言うことで,実際の尾数が点線の方に多いという意味ではありません。この図からは,魚礁の規模が大きくなると距離別の分布が均等化して,範囲が広くなることがわかります。 
    • 図5
      図5 魚礁規模の違いによる分布の変化

4 おわりに

  魚礁の効果には多くの議論がありました。その議論の多くは魚礁に集まる魚の量を試験研究と言う公平な立場から数字として表すことが難しいと言うところに起因しています。今回のお話は魚礁に集まる魚の量を数字で表すための端緒を示したものと考えています。今回は,具体的に集まる魚の量をお示しできませんでしたが,次の次の機会にはお話しできるように試験研究を進めていきたいと思います。日々の漁の道すがら,魚礁のある場所に気がついたときにでも,今回のお話を思い出していただければ幸いです。

(中央水産試験場水産工学室 山内繁樹)

印刷版