水産研究本部

試験研究は今 No.611「海洋深層水を活用したラウスバイの短期畜養について」(2008年4月16日)

はじめに

  貝類やエビ類は塩分環境に対応して浸透圧の調整を行い,その際に遊離アミノ酸を利用することが知られています。これまで,人工海水を用いた予備試験で,高塩分蓄養により道産のホタテガイやホッキ,アサリなどでも呈味性に関与する遊離アミノ酸が増加することを確認しており,この技術を用いることにより呈味性に優れた貝類を生産できる可能性があります。

  さて,海洋深層水の大型取水施設は羅臼町,岩内町,八雲町に建設され,漁獲物の鮮度・衛生管理などに利用されているほかに,脱塩や濃縮処理により飲料や食品加工にも活用されています。しかし,脱塩水の製造で副生する濃縮塩水の利用度は低く、さらなる利活用の方策が強く求められています。

  そこで,呈味性に優れた魚介類の生産技術開発に係わる基礎的知見を集積することを目的に,平成19年度から「海洋深層水を活用した生鮮貝類の高品質化に関する研究:一般試験研究費」が始まりました。今回は,ラウスバイを対象に,羅臼漁協,羅臼町役場,(有)らうす海洋深層水の協力により,羅臼漁協ウニ種苗センターで行った,海洋深層水を利用した蓄養試験の結果を紹介します。

蓄養方法と試料

  試験には,平成19年5月にカレイ刺し網で混獲されたラウスバイを用いました。蓄養は,200リットル円形水槽で海洋深層水の原水(対照区:塩分3.6パーセント)および原水とその濃縮塩水を混合した高塩分海水(高塩分区:塩分4.5パーセント)を使用し,各水槽にラウスバイ18個体を収容し,エアレーションと毎日100リットルの換水を行いました。なお,蓄養期間中(4日間)の海水温は3.5度でした。

  蓄養開始時,2日目および4日目に各試験区5個体を無作為に取り出して可食部(内臓を除去)を採取し,遊離アミノ酸の定量と3点比較法による官能検査を行いました。

遊離アミノ酸の変化

  ラウスバイの遊離アミノ酸総量は,蓄養2日目以降,高塩分区の方が多く推移し,タウリンやサルコシン,プロリンなど主要な遊離アミノ酸全てが,高塩分環境で蓄養したラウスバイに多く含まれていました(図1,表1)。

官能検査

  官能検査の結果では,対照区と高塩分区は識別され(危険率1パーセント),「硬さ(食感)」では対照区が好まれる(危険率1パーセント)ものの,「旨味」と「塩味」の点では高塩分区が好まれました(危険率5パーセント)。

おわりに

  今回の試験で,海洋深層水を活用した高塩分での短期蓄養で,ラウスバイの呈味性の向上が確認されました。しかし,実際の生産技術とするためには収容密度や塩分濃度,水質変化の把握など,スケールアップに対応する試験が必要であり,また,呈味性を向上させた魚介類の流通条件(殻付き,剥き身,流通温度・時間)と品質の関係なども検討する必要があります。高塩分蓄養による高品質な魚介類の生産方法を,消費者への「安全で美味しい道産貝類」の供給技術として確立し,海洋深層水の取水施設の優位性を活かした「事業」へと発展させるため,今後も継続して研究に取り組みたいと考えています。

(釧路水産試験場 加工部 辻 浩司)

    • 図1
      図1 ラウスバイ蓄養中の遊離アミノ酸総量の変化
    • 表1

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