水産研究本部

試験研究は今 No.650「大連市のナマコ事情について」(2009年9月28日)

試験研究は今 No.650「大連市のナマコ事情について」(2009年9月28日)

はじめに

  網走水産試験場加工利用部は、現在、乾燥ナマコの品質・製造基準の策定試験に取り組んでいます。今回、乾燥ナマコの一大消費地である中国・大連市において、ナマコの生産や流通について現地視察をする機会を得ました。大連市における最近のナマコを巡る状況についてご報告します。

大連市について

  大連市は遼東半島の先端に位置し、西に渤海、東に黄海を望む港湾都市です(図1)。日本をはじめ多くの外国企業が進出する中国有数の経済先進地域で、その繁栄から「北の香港」とも言われています。市といっても大連市の面積は1万3千平方キロ、人口は620万人で、面積は福島県、人口は千葉県に、ほぼ相当します(中国は広い!)。

  大連市は、ナマコの消費地であるとともに中国でも有数の生産地です。大連市海洋漁業振興局によれば、約10年かけて取り組んだ大連市のナマコ養殖事業は、順調な生産量の伸長とともに安定したビジネスに成長し、2008年の養殖ナマコ生産量は3万トンに達しました(図2)。この数字は日本の年間ナマコ生産量の約3倍です。現在も大連市は養殖ナマコの生産に力を注いでおり、ナマコの生産量は今後も維持されるものと思われます。
    • 図1
      図1 大連市の位置
    • 図2
      図2 大連市における養殖ナマコの生産量

      (大連海洋漁業振興局による)

加工場とレストランの聞き取り調査から

  大連市内でも最大手といわれるナマコ加工場を見学しました(写真1)。ナマコ加工品の需要は、以前は乾燥ナマコと塩蔵ナマコが主体でしたが、現在は、ニーズが多様化しており、これ以外の加工品も多く流通しています。このナマコ加工場は原料で1日30トンの処理能力を持ち、主力製品は「凍干」(フリーズドライ)、「即食」(レトルト品)、「カプセル」(サプリメント)、塩蔵品です。「凍干」は、内臓を除いたナマコをボイルし、いったん冷凍した後に減圧下で乾燥したものです。「即食」は調味したナマコを加圧加熱したもので、パッケージを開封してすぐに喫食が可能な現代のニーズに合致した製品です。「カプセル」はナマコの体壁を乾燥・粉末化しカプセルに詰めたもので、サプリメントとして使われます。大連市民にとって、ナマコは単なる水産食品ではなく、健康のために食する「薬膳」であることがわかります。

  大連市内の一流ホテルを訪ね、中華レストランのシェフと面談し、乾燥ナマコの品質や戻し方について聞き取り調査を行いました(写真2)。シェフによれば、乾燥ナマコで最も重要な要素は疣(いぼ)の状態です。疣がなければ、ナマコを姿で出す一品料理として使えません。疣は4列と6列のものがあり、後者の方が疣の数が多く高級とされます。ただし、疣のないナマコも刻み具材としての需要があり、スープや炒め物料理に用います。

  ナマコの水戻しは次のように行います。乾燥ナマコを炭酸塩水に2日間浸します。次に沸騰したミネラルウオーターに浸します。この時、疣の形状を保持するため、加熱はしません。その後、1、2日間放置し、腹を割いて縦走筋を除きます。水戻しが終了したナマコは水氷に浸して冷蔵庫で保管し、適宜、料理に使います。約0℃で保管すれば2週間程度、保存できます。水戻し中、ナマコの体壁に親指で爪を立てて硬さをみます。爪が楽に入る状態であれば、水戻しは終了です。通常、水戻し前の3倍程度の長さになります。水戻しのポイントは疣の状態と体壁の硬さです。疣の状態を崩さないよう細心の注意を払いながら、硬さを頻繁にチェックし、最適の状態で料理に供します。なお、大連市内の水道水は硬水のため、ナマコの水戻しには不向きとのことです。
    • 写真1
    • 写真2

おわりに

  疣の数が多い北海道産乾燥ナマコは、大連市でも高級品として流通しています。特に、一流レストランでは、疣のない他国産等と完全に差別化されています。北海道産乾燥ナマコは、今後も品質管理を徹底し、高級ブランドを維持していくことが重要です。
(網走水産試験場 加工利用部 成田 正直)

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