水産研究本部

試験研究は今 No.646「糞分析からみた宗谷岬弁天島に上陸するトドの食性」(2009年8月11日) 

糞分析からみた宗谷岬弁天島に上陸するトドの食性

  道水試ではトドの調査をH16年度から始めており,その内容をこれまで「試験研究は今」No.537・No.571などで紹介してきました。開始から数年がたち,データも色々蓄積されてきておりますので,今回はNo.571でも触れられていた,トドの糞分析の結果をご報告します。
    • 図1
      図1 弁天島の場所(Yahoo!地図)
    • 写真1
      写真1 弁天島とトド(和田撮影)
  弁天島は宗谷岬先端から約1kmに位置する小さな島(図1・写真1)で,日本国土最北端として知られています。トドは冬から春にかけてこの島に上陸し,多いときには100頭以上が休息しています。詳細はNo.571をご参考ください。上陸中に排泄された糞にみられる餌生物の残滓からトドの食性を調べるのが,本調査の目的です。今回は,2006年12月に採集された糞の分析結果について紹介致します。
    • 写真2
      写真2.洗浄後のトドの糞
    • 表1.
      表1.弁天島で採集した糞から出現した餌生物
    • 表2.
      表2.弁天島で採集した糞中の餌生物
  採取した糞は洗浄後,餌生物の骨・耳石・眼球・頭足類の顎板・歯舌を取り出し(写真2),これらの形状をもとに,餌生物の種類を同定しました。計29個の糞のうち,餌生物の種類の特定が可能な糞は28個(97%)でした。

  出現した餌生物は,約14種の魚類および種不明頭足類でした(表1)。

  また,それぞれの餌生物の相対出現頻度(RF%)を表2に示しました。RF%は,餌生物の相対的な重要性を示す指標(各糞に占めるその餌生物の割合から算出)です。「その他魚類」には消化が進んで種の同定ができなかったものも含まれています。

  糞分析の結果,カタクチイワシ,イカナゴ属魚類,カジカ科魚類(主にオニカジカ)およびタコ類がトドの主要な餌生物となっていたことが示されました。

  「北水試だより」第78号にも報告されていますが,弁天島のトドがどこに餌を食べに行っているのかは,まだ分かっていません。

  今回の結果を,弁天島に比較的近い,利尻・礼文島周辺海域で採捕されたトドの胃内容物分析の結果と比較してみました(図3)。糞から出現していた餌生物は,採捕されたトドの胃内容物に類似していました。しかし,主要餌生物が各海域と異なるなど,全く同じではありませんでした。したがって,弁天島に上陸するトドはその周辺海域で摂餌している可能性が高いのですが,海域周辺での餌生物環境についての知見が不足しているため,海域の特定には至っていないのが現状です。

  糞のサンプルは2007・2008年も同様に収集されており,現在分析中です。今後周辺海域の餌生物環境についての調査も含め,さらに詳しい解析を進めたいと考えています。

(稚内水産試験場 資源管理部 後藤陽子・和田昭彦)
    • 図3.

図3. 2006年11月~2007年3月に得られた弁天島(糞),利尻島(胃内容物N=5)および
                      礼文島(胃内容物N=8)標本から出現した餌生物の相対出現頻度RF(%)

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