はじめに
これまでの調査から、天塩川水系の天塩パンケ沼の底質の粒度組成は、75ミクロン以下のシルト・粘土分の比率が50パーセント以上と高く、有機物も多く含まれていることが明らかになっています。シジミ稚貝の生存にはシルト分27パーセント以下が適すると言われていますが、この比率を大きく超えています。産卵が行われているにも係らず稚貝が殆どみられないこととの関連性も考えられていて、緊急な底質改善の検討が迫られています。このためにもパンケ沼の底質がどのような過程で生成されているかを推定する必要があります。今回は、2008年に実施した天塩パンケ沼で行われた調査結果について紹介します。なお、本調査は「平成20年度 環境・生態系保全活動支援調査・実証委託事業」として、北海道環境科学研究センター、北るもい漁業協同組合、天塩町、留萌支庁、水産孵化場が実施しました。
調査内容と結果
(1) 安定同位体比による底泥有機物起源
δ13C-δ15Nマップ上(図1)で、パンケ沼底泥の安定同位体比は図中央下に集まりました。主に植物プランクトンと考えられる沼中央部懸濁態有機物質(POM)は図右上にあり、底質とは大きく離れました。このことから、沼中央部では富栄養化に伴い内部で生産される植物プランクトンが増加し沈降することだけでは説明し難いことがわかりました。過去に、基礎生産が高い富栄養湖である塘路湖で行われた研究では、δ13C-δ15Nマップ上で、湖内の懸濁態有機物質が示す位置内に底泥の値も存在していました。この場合、底泥が湖内で増殖した植物プランクトンの生産に由来しているという結論が得られています。しかし、パンケ沼の場合、底泥の有機物は、沼内の懸濁態有機物質の示す位置から大きく離れていました。このことから、沼内の底泥の生成には、植物プランクトンの生産以外に、流入河川である十号支線やサロベツ川のからの懸濁態有機物質の影響もある可能性が考えられました。
(2) パンケ沼の水質と植物プランクトンによる基礎生産量
2008年の植物プランクトン調査結果では、これまでパンケ沼のアオコ発生の原因と考えられていたAnabaena flos-aquaeは確認できませんでした。これに代わり5月及び7月の調査時にAnabaena lemmermannii(図2)が観測され、7月の調査では、これによるアオコが顕著に認められました。また、基礎生産量の測定結果では、パンケ沼1平方メートルの水柱あたり、年間207グラムの炭素が有機物として生産されていることがわかりました。これは、富栄養湖である阿寒湖の1.7倍の値になります。
(3) 流入河川及び周辺河川の水質環境特性
流入河川である十号支線の栄養塩濃度が高いことは、これまでの調査で明らかにされており、特に植物プランクトンの栄養源となる溶存無機態に関して、DIN(溶存無機態窒素)/ DIP(溶存無機態リン)比が0.4~37.1範囲で低いことが多く、リンが多いことがわかります。十号支線はパンケ沼の主要な流入河川であることから、パンケ沼では植物プランクトンの増殖に対して窒素制限になり、逆にリンが残ることから、アオコ発生の可能性が常にあります。
また、パンケ沼とサロベツ川の水質調査結果から、サロベツ川のDIN/DIPは0~44.7、十号支線と同様にDIN/DIP比が低いことが多く、リンが多いことがわかります。サロベツ川のDIN濃度は十号支線よりも高いため、サロベツ川からの沼内への逆水の影響は、窒素制限下のパンケ沼に対して窒素供給の役割も考えられます。このため、パンケ沼の植物プランクトンの発生種にも影響すると考えられます。サロベツ川からの逆流水の影響では、塩分の流入により沼内の塩分も高くなります。このことから、沼内でアナベナは発生しにくくなりますが、DIP存在下でDINが供給されるので、むしろ他の植物プランクトン現存量は増加すると推察されました。
また、パンケ沼とサロベツ川の水質調査結果から、サロベツ川のDIN/DIPは0~44.7、十号支線と同様にDIN/DIP比が低いことが多く、リンが多いことがわかります。サロベツ川のDIN濃度は十号支線よりも高いため、サロベツ川からの沼内への逆水の影響は、窒素制限下のパンケ沼に対して窒素供給の役割も考えられます。このため、パンケ沼の植物プランクトンの発生種にも影響すると考えられます。サロベツ川からの逆流水の影響では、塩分の流入により沼内の塩分も高くなります。このことから、沼内でアナベナは発生しにくくなりますが、DIP存在下でDINが供給されるので、むしろ他の植物プランクトン現存量は増加すると推察されました。
まとめ
今回の結果から、パンケ沼の底泥有機物の起源を検討すると、植物プランクトンによって生産された有機物、サロベツ川からの有機物、十号支線からの有機物が、相互に関連し合って底泥を形成していることが考えられました。この中でも、サロベツ川から懸濁物質(有機物)の影響が比較的大きいことが推定できました。しかし、もうひとつの流入河川である十号支線が関与していないということではなく、十号支線は、溶存態の栄養塩の供給源になっているといえます。特にリンの供給量が大きいので、沼内の植物プランクトンの増殖、アオコの発生、基礎生産量の上昇に影響していることは事実であり、このことは過去の調査からも推定できます。
以上が本調査で明らかになった概要ですが、引き続きこのほかの底泥の産生の要因を明らかにし、その知見を元に底泥の改善策を考えることが必要です。
以上が本調査で明らかになった概要ですが、引き続きこのほかの底泥の産生の要因を明らかにし、その知見を元に底泥の改善策を考えることが必要です。
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図1 δ13C-δ15Nマップ(右の図)
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中央下方の底泥(赤い丸の中)が、右上方の4点の白丸の中に入っていれば、底泥の由来が沼内の植物プランクトンと考えられるが、今回の結果では、十号支線、サロベツ川、天塩大橋に囲まれる部分に底泥の値が集中している。
図2 7月に発生したアオコの写真とその原因の Anabaena lemmermanniiの顕微鏡写真
北海道立水産孵化場 内水面資源部 新谷 康二 安富 亮平 下田 和考
北海道環境科学研究センター 三上 英敏
北るもい漁業協同組合 吉田 豊
天塩町 守山 義昭
北海道立水産孵化場 内水面資源部 新谷 康二 安富 亮平 下田 和考
北海道環境科学研究センター 三上 英敏
北るもい漁業協同組合 吉田 豊
天塩町 守山 義昭