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はじめに
根室湾に湖口を開く汽水湖、風蓮湖の北西部湖盆はニシン風蓮湖系群の産卵場や仔稚魚の育成場となっています。この湖では、ニシンの産卵した場所や産卵数を把握するための調査が地元の漁業協同組合が中心となって作られた「風蓮湖産にしん資源増大対策連絡協議会」によって毎年行われています。この産卵場調査は小林時正博士(元北海道区水産研究所)が始めたもので、平成10年から協議会が引き継いで実施しています。釧路水試資源増殖部も協議会の一員として調査に参加し、さらに、平成8年以降の調査結果の取りまとめを進めています。
産卵場調査
平成9年までの調査によって、風蓮湖ではニシンが主にアマモやコアマモ(以後アマモと記す)に産卵することや、5月以前にはアマモが湖奥に繁茂していないことが明らかになりました。風蓮湖におけるニシンの主産卵期が4月であることから、平成10年以降、調査はアマモが繁茂している水域で行われるようになりました(図1)。
生み出された卵はアマモの葉に付着しているため(図2)、卵を得るにはアマモごと採集する必要があります。また、卵の密度を正しく把握するためには採集面積を一定にしなければなりません。このため、採集器具には、ひもで開く幅を一定にするように工夫したアサリ挟み採りジョレンを使用しています(図3、4)。
採集したアマモはその日の内に観察され、ニシン卵が計数されます(図5)。その結果を基にニシン卵の密度分布図を作成し、総産卵数を計算します。
これまでの産卵場と産卵規模
卵の密度分布図は毎年作成します。これまでニシンが産卵してきた場所の概要を知るために平成8年から18年までの図を重ねてみました(図6)。すると、北西部湖盆全域(澪を除く)が産卵場となりうる事が分かりました。しかし、卵の分布は毎年同じようになるわけではありません。それが何故か、今は分かっていませんが、漁師さんは「湧水のある所が良い」とか「風向きによってニシンの獲れる場所が変わる」という話を聞かせてくれます。きっと、このような漁師さん達の話から解決の糸口が見つかるだろうと思います。
毎年の産卵数は卵の密度分布図から計算しています。また、水試で行っている漁獲物調査で把握される年齢別漁獲尾数をコホート解析(VPA)することによって資源尾数を推定することができ、産卵に寄与した親の数を推定することができます。こうして算出された産卵数と親魚数との間には正の相関が認められます(図7)。
さて、今年の調査は4月14日と28日に行われました。その結果、卵が確認された調査点の内の2点では過去最多となる3~4千個の卵が計数されました。5月1日に水試が行った仔魚調査でもニシンの仔魚が多数採集されています。これから行われる稚魚調査の結果を待たなければなりませんが、2年後の豊漁を期待させてくれるような調査結果が次々と示されています。
おわりに
風蓮湖で行われているニシン産卵場調査風蓮湖で行われているニシン産卵場調査風蓮湖で行われているニシン産卵場調査ニシン風連湖系群については、産卵場や仔稚魚、人工種苗などに関する様々な調査や事業が行われており、その全てに協議会が係わっています。調査等から得られる結果もさることながら、試験研究機関への協力のみならず、自ら主体的に行動する協議会の姿勢は、資源管理や栽培漁業に対する地元意識の高まりを感じさせられます。(釧路水産試験場 資源増殖部 堀井貴司)