水産研究本部

試験研究は今 No.640「食塩を利用したシオダマリミジンコの侵入防除と除去方法」(2009年5月8日)

食塩を利用したシオダマリミジンコの侵入防除と除去方法

  近年のマナマコの需要増加を背景に、種苗生産に取り組み始めた機関も増えています。道内にある既存のウニ・アワビ施設では写真1-1のような波板を利用した育成が行われていますが,ここに発生するシオダマリミジンコ(写真1-2)による稚ナマコの食害を防除する必要があります。栽培水試では,淡水浴によるシオダマリミジンコの侵入防止方法と,水中ポンプや塩化カリウムを利用して侵入してしまったシオダマリミジンコを分離する方法を開発しました。
一方,平成18年の薬事法改正にともない、マナマコに対しては,塩化カリウムなど薬品の使用は認められなくなりました。そこで、新たに食品である食塩を利用したシオダマリミジンコ対策技術を開発しましたので誌面を借りて紹介します。
    • 写真1

(1)着底基質からの侵入防除

  マナマコでは受精卵から孵化した幼生が2~3週間程度浮遊したあと,底生生活に移ります。このとき先述の波板上に稚ナマコを付着させます(採苗と呼びます)。この波板には稚ナマコが付きやすいように珪藻などを培養しますが,このときシオダマリミジンコが付いて稚ナマコ育成水槽に侵入してしまいます。そこで波板を2時間以上淡水浴して侵入を防止する方法を開発しましたが,同時にせっかく付着させた珪藻も枯らせてしまいます。珪藻は稚ナマコの初期餌料としても有益なので,これを枯らさせないために採苗前に1.5パーセント相当以上の食塩を添加した海水(1.5パーセント食塩海水と称す)に2分以上浸けてシオダマリミジンコを剥離します(表1)。

  ただし、この方法はふ化後の個体にのみ効果があり,波板上に産み付けられた卵には効きません。そこで生まれてくる幼生をあらためて除去します。

  シオダマリミジンコの卵は16度以上の水温では2日程度で孵化します(図1)。そこで1回目の食塩海水浴から3日後以降に再度食塩海水浴を行い、1回目の食塩海水浴で残った卵塊からふ化したシオダマリミジンコ幼生を剥離します(水温が低い場合は食塩海水浴の間隔をさらにあける必要があります)。なお、この食塩海水浴であれば、波板上に繁殖させた珪藻類を枯死させる心配はありません。
    • 表1
    • 図1

(2)シオダマリミジンコの分離

  既に稚ナマコを育成している水槽の場合,波板を1.5パーセント食塩海水に2分程度浸漬することでシオダマリミジンコを篩い落とします(表2)。シオダマリミジンコ剥離時に,稚ナマコも一部波板から落ちてしまいますが,目合い0.5ミリメートルの網目を通すとシオダマリミジンコと0.8ミリメートル以上に成長した稚ナマコは分離できます(本紙596号を参照下さい)。そこで,写真2に示したような手順で,稚ナマコ育成水槽に発生したシオダマリミジンコを除去します(ただし,試験では各濃度の食塩海水に浸漬していた時間は30分ですので,より長い期間浸けてしまうと稚ナマコに影響が出る可能性があります)。
    • 表2
    • 写真2
  栽培水試では今後もこうした検討を続けてより簡便で効率的な除去方法を検討していく予定です。(栽培水産試験場 生産技術部 酒井勇一・近田靖子)

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