水産研究本部

試験研究は今 No.636「カラフトマスは生まれた川に戻ってくるのか~」(2009年3月5日)

試験研究は今 No.636「カラフトマスは生まれた川に戻ってくるのか?」(2009年3月5日)

カラフトマスは生まれた川に戻ってくるのか?

  サケ科魚類には、多くの水産上の重要魚種が含まれており、北海道ではサケOncorhynchus ketaがもっとも大きな漁獲量を上げています。一方、あまり知られていませんが、世界的にみてもっとも資源量が大きい魚がカラフトマス Oncorhynchus gorbuschaです。北海道沿岸におけるカラフトマス漁獲量は、漁獲尾数750万尾・漁獲量1万トン・漁獲金額20億円(2004-2008年平均)で、日本のサケマス類の中ではサケに次ぐ漁獲量を上げています。
    • 図1
  似たような生活史を持つサケとカラフトマスですが、サケは3年から7年かけて生まれた川に帰り、産卵するのに対して、カラフトマスはそのほとんどが2年で産卵します。そのため、生まれた年の違う集団(年級群)間で遺伝的な交流がなく、また、偶数年と奇数年で漁獲の多い年と少ない年を繰り返し、時にはそれが逆転するなど特徴的な生態を持っています(図2)。
    • 図2
  回帰資源安定のため、カラフトマスでもサケと同様に稚魚放流が行われています。1980年代以降は、全道で毎年約1億4千万尾の稚魚が放流されていますが(図3)、依然として回帰資源には大きな変動がみられます。
    • 図3
  資源変動が大きい要因のひとつとして、回帰資源に占める野生魚の割合が高いためであると指摘する研究者もいます。もう一つ、カラフトマスの特徴として、生まれた川に帰ってきて産卵する性質(母川回帰性)がサケに比べて低いことも言われています。これまでに行われたカラフトマス稚魚の標識放流試験では、放流した河川での標識魚発見率が0 - 3パーセントと低いことや、放流河川以外の川で標識魚が見つかること(迷入と呼んでいます)が確認されています。カラフトマスが全く母川と関係なく産卵遡上しているとすれば、河川に稚魚を放流して生まれた川に戻ってきた親から卵を取って、また稚魚を育てて放流するというサケマスのふ化放流事業を行う上で、放流方法を考慮する必要が出てきます。

  そこで、根室管内でのカラフトマスの母川回帰状況や迷入を調べてふ化放流の効果を明らかにするため、標識をつけた稚魚を放流し親になってどこの川に帰ってくるかという調査を行っています。(社)根室管内さけ・ます増殖事業協会の協力を得て、2006年と2007年の春に耳石ALC標識を施したカラフトマス稚魚約400万尾を当幌川に放流しました。2008年秋には2006年の放流魚が親魚となって回帰するので、
根室管内の主要なカラフトマス捕獲場・採卵場で、カラフトマスの頭部を切断して回収し、その中から耳石を摘出する作業を行いました。現在、その耳石を蛍光顕微鏡で観察し、約6,500尾分の耳石についてALC標識の有無を調べています。途中経過ではありますが、これまでの知見とは異なる情報が明らかとなってきています。

  当幌川で捕獲したカラフトマスの耳石ALC標識発見率は60-75パーセントでした。他の調査に比べて、かなり高い発見率でした。また、当幌川の近隣の西別川や標津川でも0.6-3パーセントの発見率で標識魚が見つかっています(図4)。さらに、根室北部のサシルイ川でもALC標識魚が発見されました。したがって、当幌川から放流されたカラフトマスは、母川である当幌川を中心に、広く根室管内の河川に遡上していたと想定されます。
    • 図4
  今回の調査から、カラフトマスの母川回帰性はサケと比べると強くはありませんが、生まれた河川とまったく関係なく遡上するというほど、いいかげんではないということがわかってきました。ただし、カラフトマスの母川回帰性は、年級群や地域・河川によって異なることも考えられます。また、河川に遡上したカラフトマスの中に野生魚の数が多ければ、標識魚の発見率は下がりますので、単純に河川毎の比較も出来ません。カラフトマスの資源構造や母川回帰性については、まだまだ不明な点が多く、今後も研究の継続が必要です。(水産孵化場道東支場 虎尾充)

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