水産研究本部

試験研究は今 No.634「国内産乾燥ナマコの特徴について」(2009年2月3日)

1.はじめに

図1
  最近、中国・香港市場における乾燥ナマコの需要の高まりから、日本国内からの乾燥ナマコの輸出量は急増しています(図1)。北海道の生産量は全国の約4分の1で、北海道として重要な加工品、輸出品となっています。現在のところ、日本産、とりわけ北海道産乾燥ナマコは、中国市場等から高い評価を得ていますが、これからも安定した輸出を継続していくには、製品品質の安定化が重要と考えられます。

  乾燥ナマコの品質については昭和61年までは日本農林規格に定められていましたが、現在は何もありません。当時の品質規格は外観判定を主体とした主観的なものでした。今後北海道として、また日本として安定した製品品質を維持していくためには、科学的根拠に基づく客観的な品質規格(基準)が必要とされます。

  網走水産試験場は、品質基準の策定に向けて、産地の異なる乾燥ナマコ(北海道産、新潟産、香川県産、広島県産;図2)の形状、水戻し後の性状、化学成分等を調べました。また、北海道産についてはサイズ別の比較も行いました。

  形状は疣足(イボアシ)数について、水戻し後の性状は、(1)8倍重量に戻したときの体壁上部の突き刺し強度、(2)水戻し速度、(3)形体保持について調べました。化学成分は体壁(石灰質を除去)の水分、粗タンパク質、コラーゲン、ミネラル等について調べました。なお、有意差はウイルコクソンの順位和検定により行い、p<0.05で有意差ありとしました。

2.地域別の乾燥ナマコの品質について

(1) 北海道産乾燥ナマコの疣足数、体壁の突き刺し強度、水戻し速度、化学成分については、サイズの違いによる有意差はありませんでした(表1~3、図3)。
(2) 地域ごとの比較では、疣足数は北海道産>新潟県産>香川県産≒広島県産の順に多く、製品価格もこの順に高くなっていました(表1)。
(3) 水戻し後の体壁の突き刺し強度は、北海道産及び香川県産が100~110グラム、新潟県産が62.5グラム、広島県産が51.7グラムで、北海道産及び香川県産は広島県産よりも高くなりました。なお、香川県産については内部に芯が感じられました(表2)。
(4) 8倍重量及び12倍重量までの水戻し速度は、広島県産が最も速くなりました(図3)。
(5) 地域に関わらず、水戻し率が高くなると亀裂、崩壊がみられましたが、水戻し15倍重量までは全ての試料で形体が保持されていました。
(6) 化学成分では、北海道産は粗タンパク質では他地域に比べて高い傾向が、灰分及びナトリウム(食塩)では香川県産及び広島県産よりも高くなり、地域により製法に違いがあることが示唆されました。コラーゲン含有量については現在分析中です(表3)。
(7) 以上の結果をもとに、国内産乾燥ナマコの品質の数値化を試みました。
  •  疣足数は、30~56個/個体。
  •  8倍重量に水戻しした場合の体壁の突き刺し強度は、50~110グラム。
  •  水戻し速度は、8倍重量までは70~110時間。
  •  水戻し15倍重量までは体壁の亀裂・崩壊は見られない(形体保持)。
  •  体壁のコラーゲン含有量は、40パーセント以上。ただし、本州産については分析中。

3.おわりに

  各地域の乾燥ナマコには、疣足数や水戻し後の性状、化学成分などで地域的な特徴が認められました。疣足数については、産地が同じであればサイズに関わらずほぼ一定であることから、原料由来と考えられます。それ以外の数値については、原料あるいは製法のどちらに由来しているのかについて、今後試験の中で明らかにしていく予定です。なお、これらの数値の違いがどの程度価格に反映されているのかについては、まだ明らかとはいえません。しかし、水戻し後の物性については、水戻し方法により、ある程度調整することが可能ですので、どちらかというと消費(料理)する側としては、硬めの物性を持つ北海道産の方が扱いやすいのではないかと考えられます。

  現在までの試験では、水戻し後の性状、特に物性や疣立ちについては、煮熟工程が大きく影響しているという結果が得られています。これにつきましては、原料鮮度、焙乾・乾燥工程などの検討を行った後、あらためてご紹介したいと思います。(網走水産試験場 加工利用部 成田正直、宮崎亜希子)
    • 図2
      図2 乾燥ナマコの形状

      左上:北海道産 右上:新潟県産 左下:香川県産 右下:広島県産

    • 表1
      表1 乾燥ナマコの重量と疣(いぼ)足数
    • 表2
      表2 水戻し後の体壁の突き刺し強度
    • 図3
      図3 乾燥ナマコの水戻し速度

      縦棒:標準偏差、n=3~6。香川県産は個体差が大きいため除外。

    • 表3
      表3 乾燥ナマコの化学成分

      平均値±標準偏差、n=4~5。Hypro:ヒドリキシプロリン 北海道以外のコラーゲンについては、継続試験中。

印刷版