水産研究本部

試験研究は今 No.628「水産孵化場道北支場における重油消費量とサケ稚魚仕上がり魚体重について」(2008年11月4日) 

はじめに

  水産孵化場道北支場(旧増毛支場)は昭和48年から増殖事業を行っていますが、そのふ化用水は河川水をボイラーで加温して利用しています。河川水温は冬期に0度台になることから適水温が8度といわれるサケ稚魚の飼育にボイラー加温用水の利用は欠かせないものです。平成15、16年はシーズンに約600キロリットルの重油を消費してきましたが、重油の価格が上昇したためその消費の効率化に努力し、17、18年度は池の使い方を変えるなどして400~450キロリットルの消費量になりました。そして、昨年度の19年度は飼育尾数の減少もあり、約370キロリットルの消費量になったところです。さて、今後、重油消費量を節約すると魚体重はどの位になるのかシミュレーションを行なってみました。

2007年級群を振り返って

  道北支場の孵化飼育施設は旧棟、新棟の二つに分別管理されています。旧棟はボックス式ふ化器、立体式ふ化器等を設置しているふ化室と10本の飼育池から構成され、そのボイラー運転期間は平成19年11月7日から翌年4月23日におよび、加温用水設定温度は3月末まで7.2度、以降は6.5度、シーズンにおける重油総消費量は199.9キロリットルでした。一方の新棟は飼育池10本を有する棟ですが、稚魚浮上後の飼育にあわせて稼働する新棟は2月12日から運転を開始、ボイラー加温用水は5.6度に設定していることが多く、4月23日までのシーズン中における重油総消費量は170.8キロリットルでした。

熱量と重油消費量の関係

    • 図1
  昇温に要した熱量と重油消費量は比例する関係にあると考えられます。ここで各日毎の単位時間あたりの加温用水流量と昇温に要した水温差の積、この値は昇温に必要な熱量のパラメーターに相当しますが、この値とこれに対する各日毎の重油消費量の関係を、旧棟、新棟別に散布図として作成し回帰直線式を導き出しました(図1)。

成長曲線式

  サケ稚魚の飼育は池毎に管理されますが、旧棟、新棟の飼育池を複合的に使用し、2007年級群は全部で14飼育群に分け管理しました。その飼育課程で加温用水のみで飼育することは希で、多くは河川水と混合して飼育するため、14飼育群はそれぞれ異なる水温で飼育されています。ところで、サケ稚魚は指数関数的に成長することが知られています。これら14飼育群について、池で飼育を開始した日から移植・放流に供出した日迄の積算水温を求め、その値と移植・放流供出時の魚体重の関係について散布図を作成し、曲線式を求めました(図2)。
    • 図2

シミュレーション

  こうして得た2007年級群の結果をもとに、重油消費量によって魚体重がどの位になるかを想定してみました。まずは熱量と重油消費量の回帰直線式から、加温水温設定値を全ての飼育群の飼育が始まる2月下旬以降に低下させた場合、重油消費量が下記の仮想状況でどうなるかを算出してみました。
状況1:旧棟加温水温6.0度、新棟加温水温5.0度
状況2:旧棟加温水温5.5度、新棟加温水温4.5度
状況3:旧棟加温水温5.0度、新棟加温水温4.0度
このように設定した場合の重油消費量を日毎に計算してシーズンの重油総消費量を得ます。なお、各日毎の流量および河川水温は2007年級群シーズンのデータを用いました。さて、それぞれの仮想状況における重油消費量は以下の値となりました。

→状況1:旧棟184.7、新棟134.7の合計319.4キロリットルの消費量
→状況2:旧棟176.7、新棟116.5の合計293.2キロリットルの消費量
→状況3:旧棟168.8、新棟 96.8の合計265.6キロリットルの消費量

  次に、先に示した仮想状況の水温設定でどのくらいの魚体重が期待できるのかを求めました。まずは各飼育群の飼育中の積算水温を算出しますが、各池の加温用水と河川水は2007年級群の飼育時と全く同一の割合で混合すると仮定して算出しました。その積算水温値を成長曲線式にあてはめて魚体重を求めるわけですが、2007年級群の14飼育群中から代表的な7飼育群について、仮想状況における魚体重の予測値を表1に示しました。
    • 表1
  2007年級群の実測された積算水温を成長曲線式にあてはめた理論魚体重と比較すると、仮想状況1では0.05から0.1グラム、状況2では0.1から0.2グラム、状況3では0.15から0.3グラムの魚体重減少が予測されました。特に飼育開始時期が遅い群ほど、飼育水温低下の影響を大きく受けるため魚体重の減少が著しいと予想されました。

最後に

  開場以来40年弱、サケ資源造成に貢献してきた道北支場の増殖事業はあと2シーズンをもって終焉を迎えようしています。老巧化著しい孵化場ですが、何とか有終の美を飾ってもらいたい。知恵を絞ってより効率的な飼育管理を行い乗り切ろうと頑張っているところです。(水産孵化場道北支場 小山達也)

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