水産研究本部

試験研究は今 No.627「ニシン産卵藻場マップが配布される」(2008年11月19日)

はじめに

  かつてニシン漁で栄えた地域の漁業者にとって、大量の親ニシンが産卵のために岸に押し寄せ、雄の精子により海面が白く濁る「群来」は強く脳裏に焼き付いていると思います。しかし昭和29年を最後に漁獲量が激減しており、ニシン復活に強い思いを持つ人が多くいます。ニシンの産卵が行われるのは、一般的に岸近くで海藻が生育する藻場で、ここが産卵床となります。ニシンの産卵床には、海藻の種類、水深、地形などの特徴があり、ニシン資源復活のためには産卵床の環境を維持・保全することが必要です。これまで水産試験場では平成8年~19年までニシン増大の研究の一環として、産卵藻場に関する研究行いました。関係者に産卵床の保全に役立ててもらう目的で、この度ニシン産卵マップとして普及版を作成し、配布しました。

マップの意義と内容

  産卵は春に集中していますが、その時期は年や地域によって多少の差があります。産卵場所に関しては、特に多様です。毎年一定した場所が産卵床になる地域もありますが、場所が定まっていない例も数多く観察されています。また産卵床の面積は、年や場所によって大きく異なりますが、卵はばらまかれるのでは無く、海藻に密に生み付けられます。そして昔は広い範囲で見られていた産卵床も、現状では比較的狭い範囲に限られています。そのため産卵床となる環境の詳細を把握することは重要です。そして産卵床のマップを作成することは、産卵藻場となる場所の環境の一般性を特定するのに大切です。さらにマップは過去に産卵床となった場所を示しているので、その藻場を保全する上での重要な基礎情報となります。

  日本海沿岸では、ニシン産卵床が出現するのは、極限られた場所です。そのため産卵床マップは海岸線を広く眺めた衛星写真でおおよその海岸線の形状を把握し、次に海岸線を比較的拡大した航空写真で海岸線の位置を把握し、さらに航空写真を拡大した藻場分布図として産卵床が見られた場所を表現しています。これらの3段階により、産卵床を表し、そこの海岸線、地形、水深、植性の特徴が示されています。これにはカラー画像が多く用いられており、分かり易さを重視しています。

入手先

  このマップは各水産試験場を始めとした北海道の水産関係機関や海岸線保全に係る機関にCDの形で配布しています。パソコンがあれば、容易に見ることができます。また、お近くに水産試験場や水産指導所が無い場合は、稚内水産試験場に問い合わせ頂けるとCDを配布することができます。

最後に

  ニシン産卵床マップを配布するまでには、現場の漁業者、各漁業協同組合を始めとした多くの皆さんのご支援と御理解を賜りました。紙面にて改めて厚くお礼を申し上げます。
    • 図1
      図1.稚内市ノシャップ岬周辺の人工衛星画像
    • 図2
      図2.稚内地区のニシン産卵床の場所を示す航空写真
    • 図3
      図3.稚内地区の藻場分布図

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