森林研究本部へ

林産試験場

6-1 吸水材

6-1 吸水材

 手軽さから急激に需要が伸びている紙おむつには、ヒドロゲルと呼ばれる吸水材が使用されています。ヒドロゲルは速やかに自重の数百から数千倍の水を吸収し、いったん吸水膨潤すると、多少の圧力を加えても水を離さない性質を持ちます。現在では、吸水速度や吸収特性の改良、改質が進み、衛生用品、農園芸用品、化粧品など幅広く使用されています。

 従来のヒドロゲルは、ポリビニルアルコールやポリアクリル酸などの合成高分子系の材料を構成成分とするため生分解性に乏しく、燃やすと高熱を発するため、使用後は簡単に投棄や焼却できませんでした。同時に、石油や石炭を主原料とするため、その枯渇や二酸化炭素問題に関係するため、吸水材の原材料もバイオマス性の資源に置き換える必要があります。

 木材の構成要素であるセルロースから吸湿性や吸水性を有する材料(誘導体)が調製されています。そして、親水性の官能基であるリン酸基では、その導入による難燃性やイオン交換性の向上が知られていました。当場では、このリン酸基の導入により、吸水性も向上することを見出しました。

 木材の吸水能を高めるためには、セルロースに対して親水性の高いカルボキシル基などを生成させるとともに、膨潤を束縛するリグニン除去が前処理として必要でした。また、リン酸化の際には、リン酸の添加量が大きく影響し、リン酸基の置換度が0.43において最も高い吸水性が付与されました。

 膨潤形態から、リン酸化による繊維の解離とフィブリル化によって木材の吸水能が増加するようです。さらに、リン酸基の導入によって浸透圧が向上し、多量の水を保持することがわかりました。合成高分子系吸水材の10分の1程度の吸水性(200g/g)ですが、生分解性があり、二酸化炭素の増加に対する緩和対策として、環境に優しい材料になると考えています。

特許 第2744926号 澱粉粕を原料とする新規な吸水性材料及びその製造方法 があります。


リン酸基の構造

リン酸化物の膨張(左→右)


球状膨潤した繊維


膨潤状態の進んだ繊維

関連した文献として以下のものがあります。

木から作る高吸水性材料
斎藤 直人:林産試だより,12月号,(1992)

リグノセルロースのヒドロゲル化(第1報)‐ゲル化のための前処理‐
斎藤 直人,関 一人,青山 政和:林産試験場報,5(5),6-8(1991)

リグノセルロースのヒドロゲル化(第2報)‐リン酸基の構造‐
斎藤 直人,関 一人,青山 政和:林産試験場報,6(5),1-3(1992)

リグノセルロースのヒドロゲル化(第3報)‐リン酸エステル化と吸水性‐
斎藤 直人,関 一人,青山 政和:林産試験場報,7(3),1-4(1993)

リグノセルロースのヒドロゲル(第4報)‐微細構造と吸水性‐
斎藤 直人ほか3名:林産試験場報,9(2),12-15(1995)

リグノセルロースのヒドロゲル化(第5報)-結晶構造と吸水性-
斎藤 直人ほか3名:林産試験場報,9(3),7-12(1995)

リグノセルロースのヒドロゲル化(第6報)-リン酸化物の吸水特性-
斎藤 直人ほか4名:林産試験場報,9(6),14-17(1995)