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林産試験場

防火性を持つ木製ドア・シャッター

性能部防火性能科長 菊地 伸一


●ドア,シャッターに求められる機能
一般の住宅では,1枚の玄関ドア,10枚前後の室内ドアそして組込み車庫があればそこにはシャッターが使われています。玄関ドアやシャッターには,強さ,耐候性,遮音性断熱性,気密性,防火性等が,室内ドアには造作材や収納とのトータルコーディネート化への対応,強化ガラス使用による安全性や使い勝手の良さが求められます。
やや古い資料になりますが,玄関ドアおよび内装ドアの素材別内訳を表1に示します。内装ドアは99%が木製となっているのに対し,玄関ドアでは鋼製56%,アルミ製40%で木製は4%に過ぎません。省エネルギー基準が強化され,断熱ドアが普及するなかで,断熱性に特徴を持つ木製玄関ドアのウェイトが小さい原因の一つに建築基準法の防火規制に対応していなかったことがあげられます。そこで,木製ドアや木製シャッターの様々な性能のなかで防火性にスポットを当て,最近の動向や木製品ならではの特色等について紹介します。
表1
表1住宅用ドアの市場規模


●ドア,シャッターに対する防火規制

住宅の外周部は,雨風を防ぎ,内部空間を保護するためのシェルターとなります。また,住宅の外周部は火炎を遮るバリアーとならなければなりません。我が国では,江戸時代から昭和20年代まで大火が繰り返されてきたことから,「外からの貰い火をしない」ことが建築物の性能として重視されています。昭和25年に制定された建築基準法では,木造建築物を市街地から排除し,耐火建築物や簡易耐火建築物により都市を不燃化することが防火規制の最大の柱とされましたし,1959年の日本建築学会では「防火・台風水害のための木造禁止」が決議されるほど木造建築物の規制は防火対策の根幹でした。このため,都市の市街地では危険度に応じて防火地域,準防火地域が指定されており,このような地域では,外壁に木材を使うことが規制されています。同時に,このような防火規制地域では,玄関ドアやシャッターに防火性を持つものが必要となります(図1)。
図1
図1防火規制を受ける住宅の部位
平成2年に建築基準が変更されるまで,防火ドア,防火シャッター(一括して”防火戸”とされます)は,鋼製ドア・鉄製シャッター・アルミサッシ等に限られていました。基準が変更される前は,素材が燃えるものかどうかでドアやシャッターの防火性を評価しており,結果的に木製戸は防火戸として認められず,防火規制を受ける建築物から排除されていました。
しかし,ここ10年ほどの間に,木造建築物や木材を利用した建築材料を一律に排除する考え方は大きく変化しました。そして,その変化は「木質系材料や木造建築物に対する規制の緩和」というかたちで具体化しています。例えば,準防火地域に木造3階建ての戸建て住宅や共同住宅が建築可能となったこと,例えば鋼製等に限られていた防火戸を木材で製造可能になったこと,等です。これを受け,防火性を備えた木製戸が数多く登場しました。


●防火戸の働きと評価法

防火戸に求められている役割は,次の4点に整理されます。
 (1)建物内部で生じた火災の範囲を限定する。
 (2)建物周辺で生じた火災による類焼を防ぐ。
 (3)危険を生じるような破壊・倒壊を生じない。
 (4)安全な避難路を確保する。
表面材が燃えるものであっても,炎が裏面側にまわらなけらば火災は広がりません。ですから,不燃材料と組み合わせたり木材を厚く使う等の工夫によって,高い遮熱・遮炎性能を得ることができます。
防火戸の性能基準は次のようになっています(図2)。
 (1)防火上有害な変形,破壊,脱落等を生じないこと
 ・加熱を受けても,裏面側に達するすき間,亀裂等を生じないこと。
 ・加熱後に重量3kgの衝撃を与えても,防火上有害なはく離,脱落等を起こさないこと。
 (2)防火上有害な燃焼(発炎,発煙等)を生じないこと。
 ・加熱を受けても,裏面側に発炎および著しい発煙を生じないこと。
このような防火基準をクリアーするかどうかは,実大サイズの製品を加熱・燃焼させて性能を確認します(写真1~3)。そして,試験に合格したものが防火戸として認定されます。認定された木製防火戸には,図3のようなマークが添付されます。
図2
図2防火ドアに求められる性能
図3
図3木製防火戸に添付されるマーク
写真1
写真1木製ドアの防火試験(片開きドア)
写真2
写真2木製ドアの防火試験(片引きドア)
写真3
写真3木製ドアの防火試験(片引きドアの加熱面)


●木製防火ドアの性能
木材は本来遮熱性に優れた材料です。表面が燃焼しても形成される炭化層によってその遮熱性は維持されます。表面温度が800℃に達する加熱を受けても,木製防火ドアでは裏面温度はほとんど変化しませんが,鉄製防火ドアでは400℃以上になります。さらに60分まで加熱を続けても,裏面温度は100℃以下に保たれています(図4)。

図4
図4防火ドアが加熱を受けたときの表面温度

また,高温にさらされても溶融・変形することはありません。さらに,木材の未燃焼部分の強度低下は少なく,鉄骨のようにある温度以上で急激に強度を低下させることがありません。その炭化速度は0.6~0.8mm/分とされていますから,たとえば60分間燃え抜けないようにするには50mm程度の厚さがあればよいことになります。このような大断面木材の耐火性を利用した大規模建築物は,すでに数多くの実績を残しています(長野オリンピックスピードスケート会場も木材でつくられました)。さらに,燃焼時に塩酸や窒素酸化物を発生させたり,高濃度の発煙を引き起こすことがある合成高分子系の材料よりもはるかに安全なのです。

●木製シャッター
住宅の組み込み車庫のシャッターには通常金属製のものが使用されていますが,木製のものも一部に見られるようになってきました(写真4~5)。表面加工や積層が容易で,木製玄関ドア等とのデザインの統一性を図るなど設計上の要望に応じやすいことが評価されたものと思われます。
木製シャッターの形式として,金属製にみられる巻き込み式ではパネル断面が小さくなり,また目地が多くなるため,反り,狂い,耐候性の面から好ましくありません。そのため,木製シャッターとしては1枚の扉をはねあげるタイプ(スイングアップ・ドア)が最も多いようです。しかし,防火規制に合致する木製シャッターとしては,オーバー(ヘッド)ドア(図5)と呼ばれるタイプに限られます。このタイプのシャッターは,パネルが天井レールに収納され,ヘッドルームが少なくてすむメリットもあります。
図5
図5オーバドアタイプの木製シャッター
写真4
写真4木製シャッター
写真5
写真5木製シャッター