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林産試験場

木質系材料と住宅(その2)

性能部構造性能科 研究職員 小林 裕昇


 

阪神・淡路大震災と木造住宅
1995年の阪神・淡路大震災では多くの住宅が倒壊し、「木造は弱いもの」という間違った報道がされてしまいました。しかし、倒壊した木造住宅のほとんどが築年数30年を越えた比較的古い建物であり、土台や柱の腐朽のため建物自体の耐久が著しく低下していたと考えられます。さらに、古い住宅は葺き土を使用した瓦葺きの屋根であることが多く、屋根重量が大きかったのも一因としてあげられます。(写真1,2)最近の住宅では瓦を使用していても、比較的屋根が軽い場合は倒壊を免れている例もありました。


写真1
写真2
出典:阪神大震災の教訓より

また、築年数に関係なく、平面計画上の耐力壁不足や偏りがあった建物、施工において基礎と土台がアンカーボルトにより十分緊結されていない建物、または筋かいが足りなかったり取り付け方に不備があった建物なども倒壊しました。

 

 

新しい構法と木造住宅
2×4住宅や木質系プレハブ住宅は、施工方法が細かく規定され一定レベルの品質が確保されています。これに対し在来軸組構法は古くからの長い伝統に基づいており、建築基準法においても厳密な規定は設けられていません。このため施工については非常に自由度が高く、筋かい一つ見てみても取り付け方は様々で、設計や施工のレベルによって建物の性能に大きな差が生じる可能性もあります。また、熟練した大工の減少という大きな問題が住宅業界の中で言われ続けてきた経緯もあり、在来軸組構法にも新たな技術の導入が求められるようになりました。
新たな構法には、軸組はそのままで壁、床、屋根などの面を構成する部材をパネル化した構法、仕口や継手を単純な加工形状とし接合金物を使う構法(写真3)、壁は在来、床と小屋組が2×4工法のような折衷案的な構法(図1)、これらのパターンが混ざっている構法などに区別できます。
図1 出典:建築知識1996年6月号より
写真3 出典:クレテックカタログより

 

プレカットと木材
すべての木造住宅が、今述べたように新しい構法で建てられているわけではありません。一般的な在来構法では熟練大工減少の問題を解決する方法として、プレカット工業を利用することが多くなってきました。プレカットとは今まで大工が行ってきた仕口や継手の加工を、コンピュータによって書かれた図面を元に、自動加工機械と連動させ一括加工してしまうことです。(CAD/CAMシステムと言います。)プレカットされた部材は加工精度の高さ、現場における工期短縮などのメリットから、住宅産業において重要な位置を占めるようになってきました。また材料の寸法精度が求められるため、乾燥材が必須となります。そのような意味では集成材が製材品の替わりに使われることも少なくありません。現在北海道内だけでも、約50のプレカット工場が稼働中です(写真4,5)。

 

 

イスマニングの無線木塔
住宅ではありませんが、ドイツ・ミュンヘン郊外に建つ「イスマニングの木塔」を紹介します。これは最も高い現存する木造の木塔で、高さは164mあります。10階建てのデパートの高さがおよそ30mですから、その約5.5倍あることになります。このような背の高い建築物を、地震の多い日本で単純に当てはめるわけにはいきませんが、適切な構造計画、構造設計を行うことにより、鉄骨で建てるのが当然と思われる建造物も木造で可能となるのです(写真6,7)。
写真7 出典:続・木造建築の現在より
写真6 出典:続・木造建築の現在より

 

最後に
「木造住宅は強いのでしょうか?弱いのでしょうか?どちらなのでしょう。」これは最初に掲げた問題です。これまで、木材は鉄やコンクリートと比較して強度的には劣ってはいないこと、欠点や弱点を分散あるいは除去した製品があること、構法についても積極的に研究開発が進められていることをお話ししました。
最近はデザイン優先の建物を見かけることもありますが、どのような構造であっても適切な構造計画、構造設計が行われないと強度性能の低い建物となってしまいます。木造であるから特別弱いということはありません。今後もより強度のある、品質の高い新しい住宅が提案され建てられるようになっていくと考えられます。

参考文献
「木のデザイン図鑑」建築知識・別冊
「阪神大震災の教訓」日経BP社
「SD 89/01 続・木造建築の現在」鹿島出版会
「建築知識 96/06」株式会社建築知識