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林産試験場

木材の良さについて その1
地球に優しい木にもっと親しんでほしい
きのこ部主任研究員 葛西 章


 

はじめに
 昨今、多くの機会に森林の重要性や木材の素晴らしさが見直されるようになりました。しかし、一方では木製品は、腐る、狂う、弱いなどの理由をあげて、その使用を敬遠する考え方にも出会います。確かに木製品は万能選手ではありませんが、乾燥をきちんと行ったり、使い方の工夫や鉄やコンクリートなど異種材料と複合するなどによって、木材の弱点は克服できるようになりました。
 また、木製品は高いとかメンテナンスが必要との理由をあげて、その使用を避ける考え方に出会うこともあります。しかし、木製品の方が安いものも沢山ありますし、仮に木製品の方が高いから、あるいはメンテナンスが必要だからという理由で木を使わなくても良いのでしょうか。
 最近、木材は人間に対して大変優しい材料であることが種々の研究で明らかになってきました。ここでは、これらの研究の成果を紹介しながら、木材を使うことが、地球環境にとっても、人間にとっても必要であることを明らかにして行きたいと思います。


森林の役割は無限
 地球環境の汚染や環境破壊が懸念される現在、この森林の大切さが改めて見直されるようになりました。
それは、森林には次のようなすぐれた働きがあるからです。それらは、
 1)空気中の炭酸ガスを吸収し、酸素を放出することによって、空気を浄化し、地球の温暖化を防ぐ。
 2)雨水を葉や枝に留めたり、枯れ葉の堆積した腐葉土にたっぷりと吸収し、洪水や土砂崩れを防ぐ。
 3)森林は、薬の原料となる微生物や動植物を育てたり、交配によって病原虫に強い作物や収量の高い作物を作るための野生植物も育てています。
 このように、森林は大変大切な働きをしていますが、この働きをすべて人工的に作り出すとすれば、その価格は日本の森林だけでも40兆円にもなると林野庁では試算しています。


地球の温暖化を防ぐキーワードは森林
 地球環境問題として、現在世界の政治問題にまでなっているものに、炭酸ガスの増加による地球の温暖化があります。
 図は大気中の炭酸ガス濃度と地球の平均気温の経年変化を示したものです。から明らかなように、産業革命後、石炭や石油を大量に使うことによって、それまで0.3 %と変わらなかった炭酸ガス濃度が増加し、それに伴って地球の平均気温も上がり続けていることがわかります。このままの勢いで炭酸ガスが増え続けると、21世紀末には平均気温が3℃上昇し、南極や北極の氷が解けて海面が1m近く上昇し、例えばナイル川河口だけでも530 万人もの人達が土地を失うなど、人間生活に重大な影響を及ぼすと警告が発せられています。
 この温暖化を防ぐ鍵の一つは、森林を増やすことだと言われています。それは木は空気中の炭酸ガスを吸収し、固定化しながら成長するからです。


木材流通、木材輸入には環境原理を
 表1は日本の森林の年間物質生産量を表したものです。表1から明らかなように、天然林の生産量はあまり増えていませんが、人工林はどんどん増加しています。木は空気中の炭酸ガスを吸収して成長しますので、植林を進めて人工林の成長を図ることは、地球環境を守ることにつながるわけです。
 しかし、人工林を豊かな森林に育てるためには、手入れが必要です。雑草を刈り取ったり、幹にからまるつるを切ったり、除伐や枝打ちなどを行わなければなりません。そのためにはお金がかかります。もし、その手入れにかかる費用を補償できる価格で、原木を購入しないならば、林業家が経営意欲を失って手入れがおざなりになり、林が荒廃して、地球環境を守る豊かな森林が育ちません。
 そのためにも、木材は単に市場原理だけで取り引きするのではなく、環境原理ともいえる価格体系を作って取り引きすることが必要でしょう。
 また、最近円高や海外の安い人件費を背景に、安価な木材、木製品が入って来るようになりました。消費者という立場だけでみると、これは歓迎されることでしょう。確かに、今のうちは安い外材を使い、国内の森林を温存すれば良いという意見にも出会います。しかし、これが間伐等国内の人工林の手入れを妨げ、森林の荒廃につながっているとすれば、やはり問題でしょう。なぜなら、人工林が荒廃しても、海外から山まで輸入することはできないからです。そのためにも、環境原理ともいうべき視点からみた適切な輸入価格体系を考えることも必要だと思います。


木材の使用は温暖化を防ぐ
 では、森林は大切な資源だからといって、一本も木を使わないとするとどうなるでしょうか。
紙も家具も家も、すべてプラスティックや鉄、コンクリートだけで作るとすると、使い終わった後にゴミの山ができるでしょう。木材は土中で分解して土に帰り、また燃やすことも支障なくできます。
 表2は各種材料を製造するときに発生する炭酸ガスの量を示したものです。表2から明らかなように、炭酸ガスの発生量を同じ大きさの材料で比較すると、鉄は木材の約200倍、アルミニウムは約800倍にも達します。したがって、木材を使わないことによって、むしろ炭酸ガスの発生量を増大させ、地球の温暖化に拍車をかけることになるのです。
 実際に家を建てる場合はどうでしょうか。木造住宅と鉄筋コンクリート造住宅1m2当たりの炭酸ガスの発生量は、木造住宅で79kg、鉄筋コンクリート造住宅で154kgです。鉄筋コンクリート造は木造の約2倍もの炭酸ガスを発生します。
また、木製サッシとアルミサッシを製造するときの、サッシ1m2当たりの炭酸ガスの発生量は、木製サッシが2.8kg、アルミサッシが97kgで、木製サッシの炭酸ガス発生量は、アルミサッシの1/30に過ぎません。
このように、炭酸ガスの発生量を抑え、地球の温暖化を防ぐためには、むしろ木材を多く使うほうが大切なことがわかります。