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林産試験場

人にやさしい木の床づくり 1

技術部加工科 研究職員 澤田哲則


 

床は建築物の中でも,常に体と触れる重要な部分です。
今一度,床の働きを見直してみましょう。

床の種類いろいろ

“床”と聞いて,何を連想されるでしょうか?
フローリングやじゅうたん,カーペットやたたみ,Pタイルやビニルシートなど,色々なものが思い浮かんだことと思います。床には,床を仕上げる材料として,フローリング,たたみ,直張りカーペット,直張りビニルシート,各種タイルなどが用いられ,その上に敷物として,じゅうたん,後敷きカーペット,後敷きビニルシート,スポンジタイルなどが使われています。ここまでが私たちの目に触れる部分です。それに加えて,床の裏側にも様々な種類の材料が用いられています。床の裏側には断熱材や防湿シート,場合によっては緩衝材や床暖房パネルなどの床下地材が敷きこまれています。また,床を支える構造には組み床(木造,鉄骨造),置き床(木質系,樹脂系,金属系他),土間床(土間,コンクリートスラブなど),直張り床(コンクリートスラブにフローリングやビニルシート,Pタイルなどを直張りしたもの)などがあります。
屋内の床だけを考えても,多くの種類の材料や構造があり,その製品は無数にあります。最近ではアトリウムやドーム建築物が増え,屋内と屋外の区別が難しくなりました。従来,屋外のフロア材と考えられていたもの(例えば石材やアスファルト,人工芝など)も,屋内床として取り扱う場面が増えています。

床の性能あれこれ

床の役割としては,人や物を支えるというのが基本です。そのためには平坦で十分な強度と耐久性を持つことが最低の条件となります。それに加えて,現在,床には様々な機能,性能が求められています。
色彩や模様,形状や質感などで構成される見た目の良さ(意匠性)は,床の価値そのものを左右する場合があります。小さなサンプルで気に入ったものでも,床全体に敷きつめると印象が変わる場合が多々ありますので,できればショールームなどで仕上がりを確認しましょう。
清潔さを保つためには,食べ物や飲み物などをこぼした時,清掃で簡単に元に戻せる耐汚損性を備えた仕上げ材や敷物を用いることが大切です。また,ぜんそくやアトピー性皮膚炎の原因となるダニ,細菌やカビの発生を抑える抗菌・防虫性を備えた仕上げ材,敷物を用いることや,アレルギーの原因にもなるハウスダスト(チリやホコリ)の発生を抑えられる防塵性を持つ仕上げ材,敷物を用いることも,昨今では慎重に検討され,それらに対応した製品も多く見受けられます。
健康にすごせることは,今,最も注目されている重要なことで,建材の中に,人体に有害なVOC(揮発性有機化合物)などの空気汚染物質を含まないことを,よく確かめることが必要です。
安全な床にするためには,適度なしなり,やわらかさを持たせることが望まれます。ケガの発生を未然に防止,あるいは,転んでぶつけても発生するケガの程度を最小限でくいとめる弾力性を持たせることで床の安全性が向上します。そのためには,なるべく直張り床は避けて,組み床や置き床などのしなりを有する床構造にしてやることが望まれます。仕上げ材においては,すべり具合が安全性を大きく左右します。すべり具合は仕上げ材と履物との関係で著しく変化しますので,使用時の履物で良好なすべりが得られるものを選びましょう。また,乾いた時だけではなく,実際の使用を考えて,水にぬれた時や,汚れた時のすべり具合を考慮してやることで床の安全性は格段に向上します。
快適な床にするためには,ここまでの性能に加えて,さらに次のようなものが要求されます。
温冷感や凹凸感,ざらつき,ねばり,ひっかかり等に代表される触感が床の体感,印象を大きく左右しますのでので,事前に材料に触れることが大切です。
騒音防止も重要な問題です。騒音によって過去に様々な事件が引き起こされた事は,皆さんもご存知でしょう。上下に部屋がある集合住宅や多世帯同居住宅では,歩行や子供の遊戯,物を落とした時に発生するような床衝撃音をしゃ断する必要があります。この場合には,床構造,床下地材,床仕上げ材の全般が関係しますので,設計の段階から専門家に相談するのが賢明です。また,話し声やステレオ,テレビ,楽器などによる空気伝搬音のしゃ断も,床衝撃音とは対処の方法が異なりますので,やはり設計の段階から考慮しておくことが必要でしょう。音を楽しむ方や,静粛さを求める方には,床のみならず,壁,天井の材料や表面形状の組み合わせで,室内の音の反響が変化しますので,それぞれの材料の吸音率や残響時間といった音響性能を検討されることをおすすめします。
その他の特別な床の機能としては,OAフロアや電子機器を使用する場所(例えば高度医療施設,情報集積施設,高度セキュリティー施設など),電子部品の製造プラントなどで必要とされる帯電防止性があります。これは床が電気を帯びることによって起こる,電子機器の誤動作を事前に防止するものです。
また最近では,住宅やマンションで,床下を収納スペースに利用するケースも増えています。オフィスもOA化が進み,電力線や電話線,情報ケーブルなど多くの配線,配管が必要とされています。従来のような天井づたいの配線は見た目も悪く,床上での配線は歩行性の低下や断線の危険性増大につながります。そこで,床下に配管,配線スペースを確保できる収納性を持った床が普及しています。
※注)これらは床に要求されている性能の,ほんの一部です。

北国の人にやさしい床

北国の暖房「床暖房」人にやさしい建物を作る基礎となるのが“バリアフリー(障壁排除)”の設計概念です。日本での取り組みは,建設省のハートビル法が公共・公益性の高い建築物の建築基準を示し,一般住宅に関しては融資優遇制度が設けられています。バリアフリーでは,出入口等の間口を広げ,床の段差をなくし,スロープ,手すりなどを設けて,高齢者や身体障害者の方々の移動を容易にしようと考えられています。
北海道のような積雪寒冷地においては,バリアフリーの住宅仕様だけでは,高齢者や身体的弱者の方々に快適な生活空間を提供することはできません。長い冬を暖かく,快適に過す工夫が必要です。
床暖房によって“頭寒足熱”の快適な体感温度が得られることは,すでに皆さんもご存知のことでしょう。中でも温水床暖房は,火事の発生や接触によるやけどの心配のない,安全でクリーンな暖房方式として確実に需要が伸びています。
この床暖房に最も適した床仕上げ材が木材,つまりフローリングです。フローリングは適度に熱を伝え,与えられた熱を効率よく遠赤外線に変えて輻射してくれます。しかし,一般のフローリングを用いただけでは,表面がささくれたり,つぎ目にすき間ができたりといったトラブルが発生してしまいます。これは木材が乾燥すると縮み,湿気を吸うと伸びるという性質を持っているからです。床暖房用のフローリングがありますので,それを使用するようにしてください。大型の施設や体育館の床暖房には,林産試験場で開発した大規模温水床暖房システムの導入を検討していただければ幸いです。
また,北海道の家は「高断熱・高気密」であるため,材料から出た空気に溶けだす成分(揮発成分)は,部屋の中に長い間とどまり,それが人体に有害に作用する場合もあります。建材に使用されている木材自体は有害な揮発物質を出しませんが,接着剤や塗料には有害な揮発成分を含むものもあります。健康に暮らすためには,住宅も健康な状態に保っておかなければなりません。床のみならず,すべての建材を「有害な揮発成分の出ないもの」と指定できれば安心です。