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第38話 「魚醤油」の製造 -魚を無駄なく使う-

食品加工研究センター 吉川 修司

魚醤油は魚介類に食塩を加えて発酵製造する液体調味料で、魚介類の動物性タンパク質が分解されてできたアミノ酸による余韻のあるうま味(コク、味の厚み)が特徴で、主に隠し味として業務用調味料に使用されています。

北海道では20年程前から魚醤油の製造が始まりました。現在、約30の企業が、さけ、さんま、えび、うに、いか、ほっきがい等、国内外を見ても類を見ない多様な魚介類を原料に魚醤油を製造しており、北海道は全国最大の生産地となっています。また、これらの魚醤油を使用した、魚卵製品、漬け魚、練り製品、加工調味料などの加工品も数多く開発されています。

ここでは、今回、食品加工研究センターが取り組むぶりなどの加工残渣を利用した魚醤油の開発について重要なポイント毎にご紹介します。

○微生物発酵の安定化と熟成期間の短縮:従来の魚醤油は、大量の食塩(重量で20%以上)を魚に加えて製造します。この高い塩分のため、自己消化(魚に元々含まれている酵素による魚肉の分解)に時間がかかり、脂質が酸化して生じる独特のにおいが、用途を限定してきました。また、発酵の過程において有用な菌が自然に増殖するのに頼っているため、発酵が不安定になりがちです。そこで、仕込みの段階から優良な酵母を大量に加えて、好ましくない微生物の増殖を抑える方法を開発しました。さらにこの手法を応用し、タンパク質分解酵素と酵母発酵を併用することで、従来2ヶ月~12ヶ月かかっていた熟成期間を、約1ヶ月に短縮しました(特許 第7622981号)。これにより、タンパク質分解の際に生じる酸化脂質臭を抑えて、大豆醤油のような香りをつけることに成功しました。なお、詳細は「データで見る北海道の今と未来」に掲載されていますので、ご興味のある方はご参照ください。 https://www.hro.or.jp/hro/topics/rensai/data.html

○もろみの流動化:もろみ(原料に塩、麹、酵母を加えて発酵したもの)には、好ましくない微生物が繁殖することがあります。そこで、もろみ中の塩分を均一化した上で、臭いや食中毒の原因にもなるヒスタミンの生成を抑えるため、もろみを加温し流動化を早める方法を開発しました。

○発酵管理の合理化:魚醤油の製造では、カビ臭の発生原因となる産膜酵母(さんまくこうぼ)の増殖を抑えることが重要です。産膜酵母は人体には無害ですが、空気と接する箇所で膜状に増殖するとカビ臭を発生します。この対処法として、食品工場において一般的に用いられるビニールシートで、もろみの表面を隙間なく覆うことにより、手間をかけずに品質の劣化を防ぐ手法を提案しました。

○搾汁残渣の有効活用:もろみの圧搾工程において、搾汁残渣(さくじゅうざんさ)は、もろみの重量の2から5割もの量が発生し、それは未分解のタンパク質を多く含みます。原料の利用率を向上させるために、搾汁残渣を活用した魚醤油の製造方法も開発しました。

○技術導入コストの低減:一般的に企業にとって設備導入コストは大きなハードルです。導入コストを低減させるため、開発企業に対して、工場の中で使用していない器具や設備などを利用して、断熱材を用いた即席の保温ボックスを作ることなどを指導しました。

○多様な魚種への対応:ほっきがい、たこ、うに等の軟体動物は全般的に高水分で、タンパク質分解酵素などの活性も高いため発酵が進みすぎてしまい、酸生成菌の異常増殖による酸臭、酸味や臭いが発生しやすくなります。そこで、水分と塩分のバランスを考慮した原料配合を行うことで安定した発酵を実現しました。

このように食品加工研究センターでは、魚の残渣利用や、設備の導入コストを削減するための技術開発などSDGsに貢献する研究活動にも積極的に取り組んでいます。
 

もう一つ開発事例を紹介します。食品加工研究センターでは、北海道近海で漁獲されるブリについて、節と魚醤油の原料として利用する方法を、道内の節製造企業、魚醤油製造企業、大学と協力して、原料利用率を約90%まで高める方法を開発しました(図)。これまで北海道近海で漁獲されたブリは、冷凍され道外に移輸出されていましたので、新たな利用方法として注目されます。

ぶりを無駄なく利用する取組
図 ぶりを無駄なく利用する取組

近年、北海道ではさけ、さんま、ほっけやするめいか等これまで北海道の漁業を支えてきた魚介類の水揚量が減少しています。従来、骨を除く工程では身もそぎ落とされ、加工中に発生する魚皮や内臓、ヒレなどとともにフィッシュミールの原料とされてきましたが、魚価が高騰している現状では、これらを低コストでより付加価値の高い製品に加工することが求められています。

北海道では、「未利用の魚」「捨てられる海産物」がたくさん水揚げされています。こうした水産業を取り巻く状況にも対応し、原料を無駄なく使えるSDGsに貢献する取組が、今後ますます広がっていくことを期待しています。

[2026年8月25日 公開]

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