水産研究本部

試験研究は今 No.595「電気ショッカーボートによる外来魚ブルーギルの抑制効果」(2007年7月9日)

はじめに

  ブルーギル(図1)は、ブラックバスと同じスズキ目サンフィッシュ科に属し、成魚は20センチメートル前後になる北アメリカ原産の淡水魚です。名前は、えら蓋の一部がブルー色であることに由来します。昭和35年に日米修好百年を記念してミシシッピー川水系原産の18尾が日本に持ち込まれたのが最初とされています。水産庁淡水区水産研究所(当時)は、このブルーギルを食用の他、淡水真珠養殖に必要なイケチョウ貝浮遊幼生の中間宿主として期待し、飼育に取り組みましたが、成長が遅いため試験は中止されました。

  ブルーギルは自分の子供を守る習性があるため繁殖力は旺盛であります。さらに在来魚の卵・仔稚魚や水草まで食べる貪欲な食性であることや水質汚染にも強いため、全国各地に分布を広げています。なかでも琵琶湖のブルーギルの推定生息量は500トン(滋賀県、H14年)とされ、漁業と湖内生態系に深刻な影響と脅威を与えています。

  平成17年に施行された「外来生物法」でブラックバス等とともに特定外来生物に指定されており、飼育や移動は原則禁止(個人違反者は、3年以下の懲役・300万以下の罰金の科料)です。さらに、環境省や水産庁が駆除技術開発に取り組んでいます。
    • 図1
      図1 ブルーギル(なわばり雄)-下あごの薄青色は婚姻色-
    • 図2
      図2 函館市五稜郭公園の位置

道内のブルーギル対策の取り組み

  平成4年、函館市の五稜郭公園お濠で、道内において初めてブルーギルの生息が確認されました。この場所以外に生息情報がないことは、不幸中の幸いかも知れません。

  五稜郭のブルーギルは流出(排水が下水道に直結しているため)による拡散は不可能ですが、人為的持出しによる移植放流を阻止する必要があります。このため、水産林務部ではブルーギルを「封じ込め」から、手遅れにならないように「根絶」を目指す方針です。五稜郭お濠での完全な駆除方法はかいぼり(水抜き)が最も効果的と思われますが、構造的に不可能と判りました。また刺網等の漁具では、混獲による在来魚への影響が大きいと判断されます。
  そこで、平成16年から電気ショッカーボート(図3、米国スミスルート社製、2.5GPP型搭載)を使い、ブル-ギルを効率的に駆除する技術についての検討を行っています。

  方法は時速2~4kmで放電(交流、500~600V)しながら進み、感電したブルーギルのタモ網による捕獲数と単位作業時間から捕獲効率を求め、生息数を推定しました。
    • 図3
      図3 電気ショッカーボート

      (感電したブルーギルをたも網ですくう)

これまでに得られた結果

  ブルーギルの捕獲数は、平成16年は659尾、平成17年は6,939尾、平成18年では899尾、平成19年は6月末までに6,939尾で合計は15,027尾となりました。
  電気ショッカーボートの調査日毎の平均水温と捕獲効率の関係について図4に示しました。平均水温が5.2~28.1度の期間、捕獲効率は48.1~9.5と大きく変化しています。水温が18度以下では捕獲効率が20尾以上と高くなりました。これは水温が低い方がブルーギルの魚体中に電気が流れやすくなり、電流刺激を受けて感電する比率が高くなることが判りました。
    • 図4
      図4 水温と捕獲効率
  ブルーギルはどの位、生息しているのでしょうか? 平成16年秋に推定した1歳以上魚(繁殖群)は7,126尾であったのに対し、17年秋での推定生息数は790尾で、実際の捕獲数6,416尾と推定値の差がほぼ等しいため、1年間の駆除効率は88.9パーセントと幸先の良い結果となりました。
調査開始当時、お濠の水面全体にブルーギルが多数浮かんで居た頃に比較すると、極端に少なくなりましたが、簡単に話は進みませんでした。平成18年秋の1歳以上魚の推定数は158尾となり、この親魚から生まれた平成18年の0歳魚は約5,500尾(19年6月現在累積数)となり、例年は1,000尾前後であるのに対して大量に捕獲されました。

  琵琶湖の研究事例では、1歳以上魚の駆除を行なうと、0歳魚に対する捕食圧が減少し、0歳魚の生残率が上がるため大量発生することが明らかになっています。
五稜郭のブルーギルを道内に拡散させないためには、今後も数年間の愚直なる捕獲作業が必要なことは確かです。
このように、電気ショッカーボートは生息数が推定できるため、生息実態や駆除による抑制効果を判断する上で有効な手段といえます。

おわりに

  五稜郭お濠では、ブルーギルの駆除開始前に比べて、在来魚のウキゴリ・ヌマチチブ等の生息数が多く見られ始めました。電気ショッカーボートは北海道に次いで、皇居外苑公園を管理する環境省が導入して、外来魚の抑制に取り組んでいます。
  平成19年5月、道水産林務部は「ブラックバス駆除終了」を全国に宣言しました。その後、本州の市民団体の方から私に1通のメールが届きました。
「バスが一掃されたという情報は、私達の今後の活動の励みになります」
(水産孵化場内水面資源部 工藤智)

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