水産研究本部

サケ人工種苗生産

サケ

親の飼育方法、特徴

種苗生産に使う親魚は川に遡上したサケ(シロザケ)を捕獲して用います。
捕獲したサケが未熟な場合には、池の中で適当な期間蓄養して成熟を待ってから親魚として用います。

川に遡上したシロザケを捕獲します。

池に蓄養して成熟を待ちます。

受精・ふ化の方法、特徴

蓄養されたサケは、メスの腹部の張り具合などから熟度を調べ、成熟したものを親魚として採卵に供します。
メスの腹部を切開して取り出した卵にオスの精子を直接かけて撹拌します。吸水させた後にふ化室に収容します。この受精方法を乾導法といいます。

成熟した親を選び出します。

メスの腹部を切開して卵を取り出します。

オスの精子は直接かけ、撹拌します。

吸水させます。

種苗の性質、飼育時間、期間

卵をふ化の直前まで育てるふ化室では、卵はふ化器に入れて育てます。受精卵を収容するボックス型ふ化器は、一度にたくさんの卵を入れるのに向いています。水温が8℃の場合で受精してから1ヶ月程で発眼し、更にその後1ヶ月程でふ化しますが、ふ化直前の卵を養魚地に移して収容します。
養魚池には砂利を敷き、仔魚が嫌う光を遮断します。ふ化した仔魚は栄養が入った袋(さいのう)を持っており、袋の栄養だけで育ちます。
ふ化後2ヶ月程で自ら餌を食べるようになり、稚魚の段階に入ります。 

卵はふ化の直前までふ化器で育てます。

ふ化直前の卵を養魚池に移します。

養魚池は仔魚が光を嫌うため暗くしています。

ふ化した仔魚は、お腹にさいのうを持っています。

中間育成

餌を求めて泳ぎ出すことを浮上といいます。浮上して遊泳する稚魚に餌を与えて放流まで育てる場所が飼育池です。飼育池では1月~5月頃までの期間、海水温が5℃を越える時期まで飼育します。
浮上したばかりの稚魚は体重0.4グラム、体長4センチメートル位ですが、飼育池で体重1グラム、体長5センチメートル程に成長します。

餌料の種類、特徴

餌は魚粉を主原料とした人工配合飼料です。 

1月~5月頃まで稚魚は飼育池で育てます。

稚魚は1~2ヶ月間で体重1グラム、体長5センチメートル程に成長します。

放流

放流環境が整うと、ふ化場の放水路から自然に放流しますが、一部はふ化場のない川へトラックで輸送して放流します。
また、この他、更に海中で育成を行った後に放流を行うものもあります。 

ふ化場のない川へは稚魚をトラックで輸送して放流しています。

稚魚の多くはふ化場の放水路から自然に放流しますが、更に海中で育成を行うものもあります。

種苗放流実績

生産地放流場所放流数
オホーツク海区放流水系 44 海中飼育 28カ所204,099千尾
日本海海区放流水系 36 海中飼育 21カ所187,999千尾
根室海区放流水系 25 海中飼育 7カ所190,238千尾
エリモ以東海区放流水系 29 海中飼育 8 カ所213,338千尾
エリモ以西海区放流水系 51 海中飼育 7カ所194,155千尾
合計放流水系 185 海中飼育 71カ所989,829千尾

放流時の大きさ

体重1グラム、体長5センチメートル以上。 

種苗生産について

 1 種苗生産のあらまし
我が国におけるサケの本格的な増殖事業は1888年に千歳中央ふ化場を建設したことに始まります。これに続いて多くの官営孵化場が建設され放流数も増大しましたが、当時の放流数に対する沿岸・河川への回帰率は1%程度と低いものでした。
しかし、1950年~1951年にGHQ(米国占領軍)の研究使節団として来日した米国の研究者が日本のふ化事業は科学的ではないと指摘したことがきっかけとなって本格的な生態研究が実施され、これを基に飼育水温の見直しや稚魚への給餌が行われるようになり、種苗生産や放流の技術が前進しました。
現在は体重1g以上の稚魚を沿岸水温5~13℃の時に放流する方法で事業が行われていますが、これまでの種苗生産と放流の技術向上に加えて北太平洋の好適な海洋環境にも後押しを受けて回帰率は4~5%になりました。

2 種苗生産方法・工程等
種苗生産に使う親魚は川に遡上したサケを捕獲して用います。捕獲したサケが未熟な場合には、池の中で適当な期間蓄養してから成熟したサケを選んで採卵・受精に使います。
池から取り上げた親魚は採卵時に暴れないようにし、乾いたタオルで魚体を拭きます。雌の腹部を切開して卵を取り出し、雄の腹部をしごいて卵に精子を直接かけて撹拌し受精させます。使う親魚は雌8~10尾に対して概ね雄3尾の割合で用いられます。卵の大きさは7mm~8mmで、雌一尾の卵数は約3,000粒です。受精した卵を吸水させ、ふ化室に収容します。
水温8℃で受精後、約1ヶ月で発眼し、それから更に1ヶ月でふ化します。ふ化直前の卵は養魚地に移して収容します。ふ化した仔魚は餌を食べずに、さいのう(栄養の入った袋)から栄養を吸収し成長します。さいのうが吸収(水温8℃で約2ヶ月)されると餌を求めて泳ぎ出します。これを浮上といい、遊泳する稚魚に餌を与え、放流するまでの間、飼育池で飼育します。
放流は、放流環境が整うとふ化場放水路から自然放流されますが、ふ化場のない河川でもトラック輸送により放流が行われています。中にはこの後、更に漁港などで海中飼育を行ってから放流されるものもあります。
また、放流効果の把握のために、ALC染色や脂ビレの切除などの標識放流や、放流数年後に回帰したサケの魚体測定や年齢査定を水産孵化場(現 道総研 さけます・内水面水試)、役場、漁協、水産指導所が協力して実施しており、資源構造の解析や来遊資源の予測に役立てられています。  
協力・取材・編集
協力:十勝釧路管内さけます増殖事業協会広尾川さけますふ化場
取材:十勝地区水産技術普及指導所
編集:釧路水産試験場普及指導員(現 釧路地区水産技術普及指導所 普及指導員)