水産研究本部

試験研究は今 No.694「魚群探知機で魚の量を測る」(2011年08月18日)

魚探と計量魚探

  魚群探知機(以下「魚探」)は漁船のみならず、今や遊魚(舟釣り)にも欠かせません。小型化されまた安価になり一気に普及したようです。安いものでは数万円でGPS機能付き、2周波装備など、機能も充実しています。メーカーでも力を入れていて、ウェブでも情報が豊富です。

  一方、我々研究者が使用する計量魚群探知機(以下「計量魚探」)と呼んでいるものは、まだ数千万円と非常に高価です。販売台数が少なく大量生産できないのが一番のネックですが、一般の魚探には無い特別な機能が装備されています。

  その機能の説明の前に、まず魚探の原理を簡単に述べます。魚探は超音波を発射して反射波を受信する装置です。音の速さは空中では秒速340メートルですが、水中では秒速1520メートルと高速なので、海底深度が700メートル程度なら発射してから1秒足らずで海底から反射した音が帰って来ます。魚探は振動子から超音波が発射されてから、対象物から反射して受信するまでの時間を測ることで、対象物までの距離を測定します。このとき、近くにある対象物からの反射は強く、また遠い(深い)ところからの反射は弱く受信されます。こうした受信される反応の強さの違いを補正するのが計量魚探に装備されているTVG※1回路です。深度によって同じものが小さく見えたり大きく見えたりしては量を測ることなどできません。この回路によって深度10メートルと700メートルに同じ物体があれば、同じ様に反応の強さ(大きさ)を表示することができるのです。そして補正した反応を深度ごとに足し合わせていく積分回路。この2つが計量魚探の胆です。
※1 TVG:Time Varied Gain

海の中を3D表示

  スプリットビーム、これがあると対象物体の空間的な位置を測ることが出来ます。一般に振動子と言われるものを我々はトランスデューサー(送受波器)と呼んでいます。超音波を発射して、受信する部分のことです。スピーカーとマイクが一体になったものと考えて良いでしょう。超音波を発射?と思われた方もいるかと思います。魚探で用いられる超音波はパルス波と言って通常の音波ではなく、強く短い衝撃波です。それで、発信ではなく、発射と言うイメージがピッタリです。

  さて、スプリットビームの説明です。この方式のトランスデューサーは普通の魚探と異なり、受信器が田の字型に4個配置されています。ステレオマイクを2個重ねたイメージです。これを海底方向に向けると、対象物の前後左右の(水平的な)位置を測定することが出来ます。この機能のメリットは正確な魚探較正が可能になるなど数多く、あっという間に計量魚探には必須の機能となりました。

  ところで、前述した様に対象物までの距離は超音波を発射してから受信するまでの時間を測って、音速を掛ける事で求められます。これはポータブル魚探も同じです。スプリットビームでは、対象物までの距離だけではなくて、水平的な位置も分かるので、魚群などを3Dで見る事(映像化)が出来るのです。

海の世界もデジタル化

  音響データのデジタル処理技術も忘れてはいけません。受波器(マイク)で拾った超音波をデジタル化(A/D変換)することでダイナミックレンジが非常に広くなっています。非常に小さな反応から大きな反応まで飽和することなく、記録することが可能になりました(140デシベル以上)。アナログ式ではアッテネータ(抵抗)を調整して、飽和しない様に気を付ける必要がありました。アナログのカセットレコーダーと同じです。音源の音の大きさに応じてマイクのボリュームを調整しないと大きな音は歪み、小さい音はノイズに埋もれて聞こえないというように、良い録音が出来ませんでした。それと同じことが魚探でも起きていて、デジタル変換することでこの問題が解決されたのです。ちなみに湿式の記録紙のダイナミックレンジは20デシベルと言われています。

音響資源量調査—魚の量を測る

  このように普通の魚探には無い特別な回路、機能が備わっているためとても高価な機械となってしまうのですが、水産試験場では、この計量魚探が装備された試験調査船北洋丸や金星丸を用いて、日本海のスケトウダラ資源の分布量を調べています。

  いよいよ計量魚探が魚の量を測る方法を紹介します。大きく2つの方法があります。ひとつは個体数や魚群の数を数える方法。しかしこれはどちらかというと探査範囲の広い一般魚探やソナー向きの方法で、対象魚種もエチゼンクラゲやマイワシなど分布形態が限定されます。スケトウダラの分布は図1に示したように、層状になっているので計数法には適しません。そこで、2つ目の方法、これは反射音をマス(量)として測る方法です。マスとしての反応量を対象物1個の反射量で割ることで全体の個体数を推定するのです。その為には1個の反射量が分からないといけません。これは、音響計測の分野では非常に重要な値であり、ターゲットストレングス(TS)と呼んでいます。 
    • スケトウダラの魚探反応の例
      図1 スケトウダラの魚探反応の例
  この方法でスケトウダラの魚群量を測る過程をフローチャートで図2に示しました。色々複雑ですが、大事なことは3つ。魚探較正、魚探反応の記録、ターゲットストレングスです。この3つがキチンと行われていれば、魚群量の調査は成功したも同然です。

  まず、魚探較正。これは秤の検定のようなものです。これを調査ごとに行う必要があります。海水の水温が変われば音速も変わります。振動子の経年劣化もあります。ですから、調査のときに必ず行う必要があるのです。

  次に調査を行うこと。当たり前ですが、調査を行わないとデータは得られません。しかし、ただ行えば良いという訳ではなく、調査時期や調査海域を慎重に吟味しなくては成りません。このためには魚の生態をよく勉強する必要があります。特に調査範囲の設定は重要です。できるだけ魚の分布範囲を95パーセント程度はカバーする様に気をつけます。これ以上の精度を求めると指数的に経費が増えてきます。分布密度の薄い広い沖合海域を調査しなければ成らなくなるからです。そうすると調査に必要な時間も2倍や3倍では済まなくなります。ですからコストパフォーマンスを考えて、95パーセント程度をカバーしていれば良しとします。

  3つめがターゲットストレングス。これは既に多くの研究で求められていて、今では魚の種類と大きさが分かれば、計算で求める事が出来ます。従って、実際に魚探に映っている魚をトロール網などで採集する必要があります。そうすれば魚の体重も分かるので、計量魚探がはじき出したスケトウダラの反応量をターゲットストレングスで割って、それに体重を掛ける事で魚群量を重量で求める事が出来るのです。簡単でしょ。

日本海スケトウダラ調査

このようにして求めた日本海のスケトウダラ分布量を図3に示しました。これは別の解析方法(VPA※2)で推定した値とも良く合っているので、なかなか好評です。この規模の資源を継続的にモニタリングできている調査は国内では他に例がありません。なお、この調査について、より詳しく知りたい方は、これから発行される北水試研究報告81号を参照して下さい。
※2:Virtual Population Analysis。現在主流となっている資源解析手法の一つ。
    • 図
      図2 音響資源調査のフロー図
    • 図
      図3 計量魚群探知機と資源計算で推定したスケトウダラ産卵群の分布量

これから

 海中は光が届きにくいですから、海の中を調べるのには超音波が有効であるのはイルカやクジラを見ても明らかです。それらの生き物を手本とした音響カメラや計量スキャニングソナーなどの開発、実用化が大学などで進められています。ただし、音響機器を魚群の探索だけに使うのでは漁獲効率が向上し、乱獲、オーバーフィッシングに繋がってしまいます。魚群の量を正確に測って、漁獲できる量を計算する。それが資源管理の第一歩だと考えています。

(釧路水産試験場 調査研究部 三宅博哉)

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