水産研究本部

試験研究は今 No.684「自然産卵するサケの回帰」(2011年03月07日)

自然産卵するサケの回帰

図1
  北海道において秋サケは3,000万尾を超える回帰資源がありますが、これらは大部分が人工ふ化によって支えられていると考えられています。一方、さけます増殖事業の効率化によって、稚魚の放流は行っても、親魚の捕獲を行わない河川が増加しました(図1)。捕獲が中止されたことによって、サケ親魚が河川を遡上し、産卵する機会が増えているものと考えられます。このような自然産卵するサケについては近年ようやく調査が本格的に行われるようになってきましたが、まだその実態は明らかになっていません。
  さけます・内水面水産試験場道東支場では2004年以来、根室管内さけ・ます増殖事業協会の協力を得て、知床半島の根元を流れる植別川においてサケの自然産卵について調べてきました(図2)。 この調査では、遡上したサケが自然産卵し、その稚魚がどのくらい降下して、親魚になって回帰するのか、ということを人工ふ化魚と比較しようと試みてきました。その内容についてはこれまでにも「試験研究は今」のNo.543とNo.589において紹介してきました。まだ全体は明らかになっていないのですが、今回は自然産卵による降下稚魚がどのくらい戻ってきたのかを紹介します。
    • 図2
図3
  2005~2007年の4月から7月にかけて、自然産卵による稚魚を河口から1.1キロメートル上流に設置したスクリュートラップという道具で採集し、降下尾数を推定しました(図3:試験研究は今No.589参照)。 また、その前年(2004~2006年)の秋には産卵床を計数しているので(試験研究は今 No.589参照)、トラップより下流の自然産卵による稚魚も産卵床の数から計算できます。 これらを足し合わせると、植別川全体の自然産卵による降下稚魚数は5万9千尾~30万1千尾となりました(図4左)。 また、自然産卵稚魚と区別するためにふ化場から放流する稚魚には標識を施して放流しました(図4右)。
    • 図4
  植別川では毎年9月から12月にかけて河口から約7.5キロメートル上流まで歩いて、遡上した親魚の尾数を数えてきました。 2007年からは2005~2007年の春に降下または放流した稚魚が回帰し、遡上してきました。 そこで、遡上した親魚の尾数を数えるとともに、ホッチャレがあった場合は鱗と耳石を取り(図5)、鱗からは年齢を読み取り、耳石に標識されているか確認し、自然産卵魚とふ化場魚の尾数を推定しました。
    • 図5
  表1に3~5歳魚が回帰している2004年級をまとめました。 人工ふ化魚の放流尾数は自然産卵魚の降下尾数の約10倍だったのに対し、人工ふ化魚の遡上尾数は自然産卵魚の約4分の1でした。 その結果、河川内回帰率は自然産卵魚が人工ふ化魚の約45倍にもなりました。
    • 表1
図6
  自然産卵魚は人工ふ化魚よりも河川内における回帰率が非常に高くなりましたが、このことは人工ふ化魚が回帰していないと言うことではありません。 あくまでも植別川に遡上した親魚だけしか考えていないからです。 ここに興味深いデータがあります(図6)。放流場所から河口までの距離に対して、河川遡上率(=河川で捕獲されたサケ親魚の尾数/4年前の放流尾数×100)をプロットすると、一定の関係が得られます。 これは放流する場所が海に近いほど回帰した親魚が河川に遡上する割合が低くなることを示しています。 植別川のふ化場は図6の赤丸で示したように、放流場所が河口に近いためにふ化場魚の遡上尾数が少なくなった可能性があります。 または、多くが沿岸域で漁獲されている結果、河川に遡上する割合が低くなったとも考えられます。
  自然産卵魚については興味深い結果が多く出てきていますが、まだほんの一端が明らかになったに過ぎません。 これからも調査を続けて自然産卵サケが北海道の自然の中でどのように生きているのか明らかにしていきたいと考えています。

(さけます・内水面水産試験場 道東支場 春日井 潔)

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