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はじめに
道南海域におけるホッケの資源動向は漁獲量を指標としていますが、その評価には天候や漁業の行われ方よって生じる誤差が含まれると考えられます。このため漁獲から独立した情報を解析できれば、漁獲情報と合わせることでより正確な資源状態の把握が期待されます。奥尻島周辺海域は道南日本海におけるホッケの重要な産卵場となっており、このデータは資源状態を表す重要な指標となると考えられます。ホッケは鰾(うきぶくろ)を欠くことから魚探反応が弱いことで知られており、これまで魚探による解析があまり行われてきませんでした。函館水試ではホッケの現存量や水平分布を、計量魚探を用いて調べることを目標に昨年から調査を行っています。ここではトロールによる魚種確認と2種類の周波数で得られた魚探データを比較すること(差分法)による魚種判別の試みについて紹介します。
トロール調査による魚種確認
差分法による魚種判別
生物のサイズや鰾の有無によって、音響反射には周波数による違いがでてきます。これを利用して生物種を区別する方法が考案されています。例えばオキアミなどの小さいプランクトン類は低周波よりも高周波に対しての反応が強くなります。鰾のある魚ではほぼ同じか低周波の反応がやや強くなります。また、鰾のある仔稚魚や一部のハダカイワシなどは共振という現象を起こして低周波の反応が著しく強くでることがあります。このような周波数の反応の差を利用してホッケを区別することを試みました。2010年9月9日に行ったトロール調査(表1中のT2)ではホッケが多く漁獲され、他の魚種はほとんど混獲されませんでした。その他の2回のトロール調査ではホッケの他にスケトウダラやハツメが混獲されたり(T1)、ホッケがまったく漁獲されませんでした(T3)。これらデータを比較することで、ホッケの魚探データの特徴を検討しました。それぞれのトロール調査時の魚探データについて高周波と低周波の平均Svの差(差分)のエコグラム(図2)をみると、実際に曵網したと考えられる魚群(図2中の線で囲まれた部分)ではT2は他の調査時に比べ黄色が強く青色が弱くなっていました。それぞれの差分の頻度分布をみると、T2では14~17デシベルに分布の中心がみられるのに対し、T1およびT3では8~11デシベルに分布の中心がみられ、明らかに差分の頻度分布が異なります。この値は道北で行われているホッケの同様の調査に比べやや高い値となっており、吸収減衰(音波が海水の成分によってエネルギーを吸収されて減衰すること)等の補正が必要だと考えられますが、ホッケ魚群を区別できる可能性を示しています。
おわりに
2周波のデータを用いることでホッケの魚種判別の可能性が示されました。今後はさらにデータの蓄積を計るとともにデータの補正方法等を検討し、ホッケの現存量把握を目指したいと思います。
(函館水産試験場 調査研究部 藤岡 崇)
(函館水産試験場 調査研究部 藤岡 崇)