水産研究本部

試験研究は今 No.681「亜麻とザリガニをニジマスの餌に」(2011年02月01日)

亜麻とザリガニをニジマスの餌に

  本道のニジマス養殖は、生産量が内水面養殖全体の80パーセントを占める重要な地域産業です。とは言え、1991年には1,000トンを超えていた生産量は今や200トンにまで減少しています。本道は冷涼な気候、豊富な水資源といった冷水魚の養殖に有利な条件を備えているのですが、外国産養殖さけますの輸入量増加や消費者の「内水面魚種離れ」が生産量減少の主な理由として考えられています。生産量を回復させるためには、食品としての安全性や食味の向上といった養殖魚の高付加価値化や差別化を検討する必要があります。実際に、欧州などでは自然素材を主要な餌料とし、抗生物質を使用しないオーガニック(有機的)養殖が広まりつつあり、消費を伸ばしています。このような背景の中、養鱒餌料の原料となる輸入魚粉の価格上昇は餌料価格の高騰という形で養殖経営を圧迫していることもあり、道産の自然素材を用いた養鱒餌料を開発して、安全安心そして低コストなニジマスを生産できないか、というのが本試験に着手した目的です。

  養鱒では、成長を促進するために、タラの肝臓などに由来する魚油を主な原料とするフィードオイルが使われます。このフィードオイルの代わりに成長を促進する素材として、また抗生物質の代わりに魚の抗病性を高める素材として植物性油脂を選びました。以前の研究で、なたね油や亜麻仁油(亜麻の種子に含まれる油脂)などの植物性油脂がサケやサクラマス稚魚の成長と抗病性増強に効果があるという成果が得られていたからです。ところが、試験を行った結果、なたね油はニジマスの成長や抗病性に効果はありませんでした。
一方、亜麻仁油は成長促進効果がみられなかったものの、図1に示したようにニジマス養殖場でよく発生する「せっそう病」に対する抵抗力を強める効果があることが分かりました。

亜麻仁油に含まれるリノレン酸、リノール酸がその効果をもたらすと考えています。ただ、亜麻仁油は高価であるという餌料素材としては致命的な欠陥があります。そこで油脂を搾出した残渣である亜麻絞り滓の成分を分析した結果、油脂が十分に含まれていることが判明したので、絞り滓を素材として検討することにしました。 また、消費者は赤い肉色のさけますを好むため、ニジマス養殖では人工カロチノイド色素を加えた餌を長期間与えて着色する「色あげ」という作業が行われます。私たちはこの点にも着目し、人工色素に代わる自然素材としてアカボヤ外皮とウチダザリガニを使ってみることにしました。


    • 図1
予備試験の結果、アカボヤ外皮粉末には色あげ効果が期待できないことが分かりました。一方、ウチダザリガニにはカロチノイドの一種であるアスタキサンチンが豊富に含まれていることが明らかになり、色あげ素材として採用することにしました(表1)。 

  餌原料の大部分は魚粉です。現在は輸入カタクチイワシミールが使われていますが、私たちの目的は道産素材100パーセント餌料なので、道東で漁獲されるサンマから作られたミールを使用することにしました。検討を重ねた結果、亜麻絞り滓とウチダザリガニ、サンマミールの配合比を2:8:7にすると、市販餌料に近い成分比になることが分かりました(表2)。

現在、この餌による飼育試験を実施中ですが、ニジマス達の評判は食べ方から判断する限りは良いようです。それもその筈、ウチダザリガニが1929年(昭和4年)に北海道に導入された理由は摩周湖に生息するニジマスの餌にしようということだったので、ウチダザリガニはニジマスの大好物なのでしょう。

    • 表1、表2
    • 図2
  今後、飼育試験を重ねてニジマスの成長や餌料効率、肉色などを判断基準として「亜麻サンマザリガニ餌料」を評価し、餌料として使用できると判断されれば、ニジマス生産者に積極的に普及していこうと考えています。もっとも、乗り越えなければならないハードルもあります。そのひとつが製造単価で、市販の色あげ用餌料の1キログラム当たり単価が200円ほどなのに、この餌料は1キログラム当たり380円もします。ただ、この単価はウチダザリガニを小売価格で計算しているためで、廃棄物として扱われる小型のものや駆除したもの使用すると製造単価は160円程度まで落とせそうです。その他、亜麻絞り滓を含めた素材の供給ルートの確立も課題となっていますが、養殖ニジマスの付加価値の向上だけでなく、廃棄物の有効利用や外来種駆除の促進という面も併せ持っていますので、課題の解決に向けて試験を進めていきたいと考えています。

さけます・内水面水産試験場 内水面資源部
内藤 一明

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