水産研究本部

試験研究は今 No.668「遺伝子解析によるサケ冷水病の疫学調査」(2010年07月01日)

はじめに

  冷水病はアユやサケ科魚類に発生する、鰭の欠損や体表にえぐれ等が現れる細菌性の疾病です。
この菌は人体には全く影響がありませんが、ニジマス養殖において低水温期にしばしば大量死をもたらすことで以前から問題となっていました。近年、さけます・内水面水産試験場の検査で、北海道の各河川に遡上したサケ親魚が高い割合でこの冷水病菌を保菌していることがわかりました。川に遡上し、最終成熟をむかえ、免疫的に弱った親魚がこの菌の侵入を許してしまうものと思われます。この保菌で親魚が死亡することはないのですが、ごく少数の孵化場では、放流するサケ稚魚に冷水病が発症していることが判明し(図1)、この原因、特に親魚の保菌との関連について菌の遺伝子解析から調べることにしました。  
    • 図1

方法

 冷水病の発症がみられる1つの孵化場を対象に、2007年・2008年の2年間、雌親魚とその稚魚から原因菌の検出を試みました。1個体から1個の冷水病菌を保存し、同じ日に複数の魚から得られた菌群を1つのロットとしました。得られた菌は遺伝子解析(図2)によりタイプ分けし、ロット間の疫学的な関連性を推測するため、タイプ出現率の重複度*を全てのロットの組み合わせで算出し、デンドログラム(樹状図)を作成しました。

*タイプ出現率の重複度 : 1-Σmin(Xi,Yi)
1-(2つのロットに共通して出現したタイプの出現率を比較し、小さい値の方を選択して、全て積算した数値)

    • 図2

結果

  表 1 のとおり 7 つのロットから合計 272 株が分離されました。これらの冷水病菌を遺伝子解析によりタイプ分けし、それぞれのタイプの出現率をロット毎に算出しました。これをもとにタイプ出現率の重複度を全てのロットの組み合わせで算出し、デンドログラムを作成すると図 3のようになりました。図 3 の 07子と 08 子は今問題となっている稚魚からの分離菌群ですが、07 子(07 年度の子の菌群)は07 親 2(07 年度の親の菌群)と、08 子(08 年度の子の菌群) は08 親 3(08 年度の親の菌群)と類似性が高いことがわかります。07 親 2 と 08 親 3 はそれぞれ、その年、最後に採卵された親から得られた菌群です。
  • この孵化場では親魚を蓄用する池と稚魚を飼育する池を兼用としている。
  • その年の最後の親の保有菌群と子の保有菌群の類似度が高い。
これらのことから、その年の最後の親魚を由来とする冷水病菌が池に生き残り、同じ池に放養された稚魚に伝染したことが推測されます。冷水病は親から子に池を介し、伝染していたのです。
    • 表1
    • 図3

おわりに

  この孵化場の 2007~2009 年をふりかえってみますと、2007 年は親魚蓄用後に池消毒を行わなかった結果、稚魚に冷水病の発症がみられましたが、 2008 年、2009 年は池消毒を行い、稚魚の冷水病発症はありませんでした。池の消毒はさけ増殖事業期の最中、面倒な作業ではありますが、この疾病の予防に非常に有効であることがわかり、今では、この孵化場は冷水病をクリアすることができました。

さけます・内水面水産試験場 内水面資源部
内水面研究グループ 畑山 誠

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